ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Munro の “Dance of the Happy Shades” (1)

 先週は1日1話のスローペースで新ノーベル賞作家、Alice Munro の処女短編集 "Dance of the Happy Shades" を読んでいたが、連休最終日のきのう、久しぶりにまとまった時間が取れ、めでたく読みおえることができた。さっそくレビューを書いておこう。

Dance of the Happy Shades

Dance of the Happy Shades

  • 作者:Munro, Alice
  • 発売日: 2000/03/02
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆☆★] 人の心は移ろいやすく、また心には自分でも正確には把握できぬほどいろいろな思いが詰まっている。その複雑な心の動き、ありようのなかで時々、いちばん奥底にある真情がかいま見える、あるいは噴きだしてくる瞬間がある。本書はその瞬間をみごとにとらえた短編集である。ここで成功の鍵はまず、的確な人物造形にある。カナダの小さな町に住む少女や主婦を主人公とした物語が多いが、どの人物も一個の独立した存在であると同時に、万人に当てはまる普遍的な側面を兼ねそなえている。たしかに自分もおなじように感じ、おなじように考えている、と読者に思わせるだけの説得力があるのだ。それはおそらく作者の人間観察力がすぐれているからだろう。これが第二の鍵である。心地よく美しいものだけを見るのではなく、また不快で醜いものだけを見るのでもなく、人間の「複雑な心の動き、ありよう」をすべて、とことん見すえる観察眼。それは一面、冷徹なものだが、真実を鋭くえぐり出すだけでなく、人間のありのままの姿を温かく見守るものでもある。人間とはなんとおもしろい生き物なのか。そう感動することが観察の原動力となっている。つまり第三の、そしておそらくもっとも重要な鍵として挙げられるのが、人間そのものへの深い関心と愛情である。このように、上に述べた〈真実の瞬間〉とは、人物造形、人間観察、そして人間への関心と愛情のたまものなのである。長らく母親の介護に当たってきた姉と、母の死後、久しぶりに帰郷した妹が再会する「ユトレヒト条約」に本書のエッセンスが集約されている。正真正銘、珠玉の短編集である。