ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Colin Barrett の “Young Skins” (1)

 2014年のフランク・オコナー国際短編賞(Frank O'Connor International Short Story Award)、および同年のガーディアン紙新人賞(Guardian First Book Award)のダブル受賞に輝いた Colin Barrett の "Young Skins" をようやく読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 人生には、なかんずく青春時代には、届かなかった思いがいくつかある。それは純粋であればあるほど切ない。本書はそんな思いを7つ、スラング混じりの力づよい、時にリリカルな文体で鮮やかに描いた短編集である。なかでも、中編といってもいい第5話 "Calm With Horses" が白眉。突発的な暴力とアクション、強烈なサスペンスに圧倒されるが、怒濤のような展開のなか、なにげない日常風景にふと紛れこむ家族への思いが忘れがたい。以後、切れ味鋭い佳篇がつづく。意外な場面で浮かびあがるアル中男の孤独と喪失感、バーの前を過ぎゆく葬列によみがえる青春のほろ苦い思い出。平凡なテーマから非凡な一瞬の光景が生まれるという、短編ならではの奇跡である。その共通項が「届かなかった思い」なのだ。完成度はやや落ちるものの、前半の4話にしても、若い男女のすれちがい、ボタンのかけちがいに同じ思いがこめられている。青春とは、なんと切ないものなのか。