ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Orhan Pamuk の “The White Castle”(2)

 恥ずかしながら、Orhan Pamuk の作品を読んだのは本書が2冊目。日本では「オルハン・パムク」と表記されていることも、何ヵ月か前に “My Name Is Red”(1998 ☆☆☆☆★)を読むまで知らなかった。 

 宮仕えの時代にこのノーベル賞作家を敬遠していたのは、同書をはじめ大作が多いから。とはいえ、"The White Castle"(1985 ☆☆☆☆)は、長めの中編小説と言ってもいいくらい。それもあとまわしにしたのは、代表作とおぼしき “My Name Is Red” より先に読みたくなかったからだろう。 

  これは先月、愛媛の田舎に帰省した際、電車の中で一気に読もうと思ったのだけれど、当てはずれ。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」というやつで、小品ながら、じつに内容が濃い。早く読めばいいってものじゃないと考え直し、じっくり味わうことにした。

 まず目が釘付けになったのは Why am I what I am? という問い(p.58)。本書のテーマのイントロだろうな、とピンと来た。レビューの書き出しも、これをいただくことにした。「『おれは誰だ』。生きていると、いつかはこの実存の問いに立ちすくむことがある。たぶん」。
 続いて気になった文言をいくつか挙げておこう。what went on in the darkness of our minds(p.111) the truths he'd discovered about the insides of our heads(p.121) the secret truths of the interior of our minds(p.130) these ghost stories about the dark recesses of the mind(p.131)
 どれも似たり寄ったりだが、こうした「心の奥にひそむ秘密の真実」こそ、Why am I what I am? という問いへの答えであることは間違いあるまい。ではその真実とは?
 やがて、主人公のヴェネツィアの青年を奴隷とするオスマン帝国の学者ホッジャは、さらには皇帝みずから、狩りの際に村人たちに what was his greatest transgression, the worst thing he had done in his life? と問いただすようになる。それも his real sins は何か、と(p.132)。この real sins が「心の奥にひそむ秘密の真実」の実態なのである。
 いささか図式的ではあるけれど、これほど単刀直入に「実存の問い」を扱った作品は、たぶんもう欧米や日本の文学ではめったに見かけなくなったのではないかしらん。きっとカフカ安部公房ポール・オースターなどとパムクを比較する評論がたくさん書かれていることでしょうね。(つづく)
(写真中央は、愛媛県宇和島市の権現山。先月の帰省中、このつまらない写真を撮ったあと、もっといい写真を撮ろうと、さらに山奥に分けいったとき、突然スズメバチに襲われた! 休日診療の当番だった〈小川クリニック〉さん、お世話になりました。ほんとうに親切なお医者さんです!)

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