ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Sword of Honour" 雑感(4)

 なんとか体調が回復してきたようだ。気になるのは血圧だが、数値さえよければ、あしたからまたジムに通おうと思っている。(brownsuga さん、お気遣いのコメント、ありがとうございます)。
 "Sword of Honour" のほうも、元の第三巻 "Unconditional Surrender" に該当する章に入り、徐々にペースアップ。相当に面白い。☆☆☆☆は確実で、★を追加したくなる要素もちらついている。
 面白さの大半はコメディーとしてのものだが、それよりまず、本書のタイトル "Sword of Honour" について。いままであれこれ由来を推測してきたが、ずばり明示されている箇所が出てきた(pp.456-457)。
 後注によると、1943年2月、英国王ジョージ6世はソ連赤軍創設25周年を記念して、当時、攻防戦の最終局面にあったスターリングラード市に a Sword of Honour を贈呈することを決定。その剣が同年10月、贈呈前にロンドン市内で展示され、会場前にできた長蛇の列を横目に主人公 Guy Crouchback がまったく無関心に通りすぎる。この描写は Evelyn Waugh のある考え方を示しているように思われる。つまり、いままでの推測箇所とあわせると、honour とは虚妄にすぎないのではないかという疑念だ。
 ひょっとしてこれ、本書のテーマと関係があるのかも、という気がしてきた。それも★の要素なのだけど、ホンマかいな。たぶん結末が決め手だろう。
 コメディー部分では何度かゲラゲラ笑ってしまった。ヘンテコな人物が登場するだけでなく、とにかく状況そのものがケッサクで、つなぎ合わせると sitcom と言ってもいい。
 第一部で Guy が元妻の不倫相手と一杯やる話はすでに紹介したとおり。前回書き洩らしたが、第二部では Guy がクレタ島に上陸したとき、所属するコマンド部隊の隊長がなんとその不倫相手ときた。そんな設定で始まりながら、降伏後の将校にとって「名誉ある道」とはいかなるものか、というシリアスな問題に発展するのだから、Waugh の着想のユニークさはハンパねぇって。
 さて第三部。元妻 Virginia はその後、不倫相手とはまたべつの男と結婚したものの、その夫とも離婚寸前に浮気。新しい間男の子供を宿し中絶を決意する。が、戦時下のロンドンではなかなか適当な医師が見つからない。紹介された医師にあっさり断られたあとの場面がこうだ。She dreamed she was extended on a table, pinioned, headless and covered with blood-streaked feathers, while a voice within her, from the womb itself, kept repeating: 'You, you, you.'(p.516)この 'You, you, you.' とは、上の間男が、イヤがる Virginia に迫ってきたときのセリフである。
 Guy のほうは、クレタ島からイギリスに帰国後、新たな作戦にそなえて訓練中に負傷、叔父 Peregrine の家で療養している。そこへ突然、Virginia が押しかけてくる。彼女の下心は読者にも見え見えだ。'Virginia?' 'So she claims.' 'Good. Send her in.' 'You wish to see her?' 'Very much.' 'If there's any trouble, ring. Mrs Corner (the servant) is out, but I shall hear you.' 'What sort of trouble, Uncle Peregrine?' 'Any sort of trouble. You know what women are.' 'Do you, Uncle Peregrine?' He considered this for a moment and then conceded: 'Well, no. Perhaps I don't.'(p.559)
 まさに爆笑ものですな。こんなに笑わされたのは久しぶりだ。上質なユーモアは、古き佳きイギリス小説の醍醐味のひとつである。それにくらべ、最近のブッカー賞がらみの作品なんて、大半が話芸という意味ではほんとに芸がない。
 ともあれ上の最後のくだりだが、ぼく自身、もしこんな質問を受けたら、やっぱり Perhaps I don't. と答えるだろうな。
(写真は、愛媛県宇和島市にある、弘法大師ゆかりの馬目木(まめぎ)大師堂。去年の秋、帰省中に撮影。近所の貧乏長屋に住んでいた子供時代は、こんなお堂にはまったく関心がなかった)

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