ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Leila Slimani の “The Perfect Nanny”(1)

 ゆうべ、Leila Slimani の "The Perfect Nanny" を読了。2016年のゴンクール賞受賞作、"Chanson douce" の英訳版である。巻頭の紹介によると、彼女はモロッコ出身の若手作家で、モロッコ人の女流作家が同賞を受賞したのは初めてのことらしい。この英訳版は昨年、ニューヨーク・タイムズ紙の年間ベスト5小説のひとつに選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。 

PERFECT NANNY, THE

PERFECT NANNY, THE

 

[☆☆☆] パリのアパルトマンで、幼児と幼い少女が何者かに惨殺される。ショッキングな冒頭シーンに思わず引きこまれるが、犯人とおぼしい女ルイーズがすぐに登場。彼女は子どもたちの世話だけでなく、その多忙な両親の留守中、炊事・洗濯・掃除など家事全般をこなす申しぶんのない子守で、主婦と母親の役割を果たす家族の一員のような存在だった。そんなルイーズがなぜ凄惨な犯行におよんだのか。一家との交流と平行しながら、次第に彼女の過去が明らかにされる。不幸な家庭生活、借金苦、孤独。場面の切り替えが手ぎわよく、短いカットに心理が凝縮。ルイーズの異常な一面を示す微妙なヒントが少しずつちりばめられる。サイコパスである。が、犯行の引き金は不明という結末に不満がのこる。真相を藪のなかとする必然性がないからだ。ゆえに貧困や移民問題などを描いた印象的なエピソードにしても、読後にはインパクトが薄れてしまう。純文学としてもミステリとしても中途半端な読みものである。