ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “A Fable”(1)

 ゆうべ、William Faulkner の "A Fable"(1954)を読了。1955年のピューリツァー賞および全米図書賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 

A Fable (Vintage International) (English Edition)

A Fable (Vintage International) (English Edition)

 

[☆☆☆★★★] 否定構文の連続である。AでもなくBでもなく、CでもなくてD。そのDにしても、つぎに訪れる否定の前ぶれであり、人物や情景をはじめ、ありとあらゆるものの描写に否定表現がふくまれている。それはまるで、およそ考えうるすべての要素を比較検討し、ひとつの暫定的な結論に達しようとしているかのようだ。一種の問答法、弁証法である。その極致が本書最大の山場、老将軍と若き伍長の対話なのだ。舞台は第一次大戦末期の西部戦線。仏軍連隊の伍長は突撃命令に従わず、独軍もなぜか攻撃を中止、奇妙な停戦がはじまる。12人の部下をひきいる伍長はキリストを彷彿させ、その行動を問いただす将軍はあたかもピラト、あるいは大審問官のようだ。ふたりの問答は煎じ詰めると戦争と平和、そして自由の問題にかかわっている。たしかに戦争は悲惨なものだが、絶対平和をもたらすには絶対君主が全人類を支配するしかない。異論があれば戦いが起こり、戦いを封じれば自由がうしなわれる。この矛盾を解決する方法はなく、そこには否定の連続があるだけだ。ゆえに、戦争にしろ平和にしろ、人はたえず悲惨な状況に耐えるしかない。それが本書から読み取れるひとつの寓意である。その寓意らしきものにたどり着くまで、たいへんな忍耐を強いられる超問題作である。