ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Modiano の “Invisible Ink” (1)

 フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の近作、"Invisible Ink"(2019, 英訳2020)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆]「もっとヤクを!」とモディアノ中毒患者なら思ったのではないか。「現在と過去が溶けまじり」、「青春時代に生きたすべての一瞬が永遠の現在のひとときのよう」などとモディアノ節も散見されるが、結末もふくめ嘆きが、胸のえぐりが足りない。中盤まで、初老の男ジャンの回想と現況が交錯。若き探偵社員時代、失踪した娘ノエルの行方を追ってパリ市内をめぐり歩いたものの、ノエルの周辺に危険な香りを嗅ぎとっただけで調査は行きづまる。後年、ジャンは自分自身の人生における空白を埋めるべく調査を再開。ノエルがあぶり出しインクで書きのこしたかのように希薄な手がかりから、真相が次第に浮かびあがるのを待つ。終盤、ノエルのほうに視点が切りかわったローマ篇で真相開示。といっても、このあぶり出しの絵、おそらく男と女の悲しい人間模様なのだろうが、あまりに不鮮明で想像の域を出ない。ゆえに「胸のえぐりが足り」ず、「もっとヤクを!」と叫びたくなるのである。