ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Silas House の "A Parchment of Leaves"

 今週は通勤時だけでなく帰宅後も読書を楽しめるようになり、おかげで職場以外では快調な毎日だった。

A Parchment of Leaves (Ballantine Reader's Circle)

A Parchment of Leaves (Ballantine Reader's Circle)

[☆☆☆★★] 読了後、聖歌『ごらんよ空の鳥』の歌詞、「野の白百合を」がふとひらめいた。人目を奪う大輪の花ではなく、野原でひっそり咲いている清楚な花。これはそんな作品だ。舞台は第一次大戦前後、ケンタッキー州の山中の村。美しいインディアンの娘が白人の若者と結婚し、義母との関係も順調、幸福な人生を歩みだしたかに見えたが、夫には情熱的な弟がいて…別にすれっからしの読者でなくても、最初の数十頁を読んだだけで、その後の展開と結末がおおかた予想できる物語だが、それでもかなり面白かった。前半は、ときおりよぎる不安の影が次第にサスペンスを盛りあげ、やがて悲劇が起こった後は、復活への期待感でページをめくる速度が速くなる。変化に富んだエピソードが続いて小気味よいし、山や森などの素朴な自然描写もハート・ウォーミング。斜に構えなければ大いに楽しめる愛の讃歌だ。英語も二級から準一級くらいで読みやすい。

 …03年に Fellowship of Southern Writers というアメリカ南部文学の育成を目的とする団体から、James Still Award という賞を授けられた作品で、この賞は、ぼくの好きな Ron Rash も05年に "Saints at the River" で受賞している(未読)。http://www.lib.utc.edu/services/special_collections/southern_writers.html どうも隔年に発表される特別功労賞のようだが、詳細は不明。今年の受賞作もまだ分からない。
 ますますローカルな話題だが、ぼくは何しろ田舎者だし、かつ文学ミーハー派なので、アメリカやイギリスのアマゾンのリストマニアをサーフィンしては、印象的な表紙の本があればシノプシスを斜め読みし、面白そうなローカル・ピースだと思ったら時々注文して積ん読。今週のように余裕ができたときに読むことにしている。そんな手順で発見した本書だが、これは表紙から受ける印象どおり素朴で、派手な仕掛けのまったくない、心の疲れを癒すにはもってこいの作品だ。
 上のレビューで紹介した粗筋を読んだだけで、もう最後まで話が見えてしまう読者もいることだろうが、「分かっちゃいるけどやめられない」本もあり、ぼくにとってはそんな一冊だった。人物関係にしろ、性格や心理、あるいは風景の描写にしろ、すべてが型通りといえば型通り。しかしサスペンスがあって読ませる。一つ一つの小さな事件も、感情がこもっていて面白い。Pamela Carter Joern の "The Floor of the Sky" をクサしたぼくだが、あれと本書は人物造型の点では五十歩百歩、そんなに大きな差はない。違うのは物語の迫力だ。
 それから、背景として第一次大戦当時のアメリカの状況も描かれるのだが、そこには余計な政治的、道徳的な講釈がいっさいなく、あくまで愛の悲劇と讃歌という直球勝負で押している点も好ましい。こんな作品は理屈をこねず、素直に楽しむに限る。とにかくこれは、慢性疲労やストレスなど、日頃の悩みをしばし忘れさせてくれる一服の清涼剤だった。