ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Xiaolu Guo の “A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers”

 本日、国際IMPACダブリン文学賞のショートリストが発表された。http://www.impacdublinaward.ie/News.htm どの候補作も未読だが、アンドレイ・マキーヌの "The Woman Who Waited" だけは持っている。マキーヌは、今年の正月に "Dreams of My Russian Summers" を読んでいたく感動したばかりなので、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080110/p1 ぜひ応援したいところだ。
 そういえば、3月18日にはオレンジ賞のロングリストも発表されている。http://www.orangeprize.co.uk/show/feature/home/orange-longlist-2008 いつもどおり候補作が多すぎて食指が動かないが、昨年は最終候補作を三作読み、アディーチェの受賞を確信したものだ。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071129/p1 惜しくも落選した Xiaolu Guo の "A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers" もなかなか面白かったので、ここに昔のレビューを再録しておこう。

[☆☆☆★★★] シャオルー・グァオと表記すればいいのか、中国人作家が英語で書いた07年度オレンジ賞候補作。ひと口にいえば、一年間にわたる中国娘のイギリス語学留学奮戦記である。月ごとに分かれた各章にいくつか基本的な英単語が掲げられ、それにまつわるエピソードがユーモアたっぷりに紹介される。言葉に不自由しながら食生活や言語習慣、要は文化の違いに目を白黒させる主人公。その真剣な姿がかえって笑いを誘うが、途中、漱石の『倫敦塔』を思い出さずにはいられなかった。時代のせいか、国民性の違いのせいか、ここでは漱石が受けたほどの本質的なカルチャー・ショックは描かれない。けれども、そんな比較をするのは野暮だろう。自由を享受し、恋に落ち、セックスに開眼するという流れは青春小説そのもの。それに前述のドタバタ喜劇も混じり、なるほど、こんな語り口なら定番の話でも新鮮に読めるわけだ。やがて二人のあいだに価値観、人生観の相違からきしみが生じると、物語も哀調を帯び、最後は胸を締めつけられる。わざと稚拙に書かれた英語が絶妙な効果を上げている。高校の先生方、ここは文法的にこう直さないと、などと考えないで下さい。

 他に気になる文学賞は、3月13日に地域部門賞が発表されたイギリス連邦文学賞だが、http://www.commonwealthfoundation.com/culturediversity/writersprize/2008/regionalwinners/ こちらも候補作が多すぎて戦意喪失。大賞の発表後に受賞作だけ読むことになりそうだ。