ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barry Unsworth の “The Quality of Mercy” (1)

 Barry Unsworth の最新長編、"The Quality of Mercy" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

The Quality of Mercy

The Quality of Mercy

[☆☆☆] 1992年のブッカー賞受賞作、"Sacred Hunger" の後日談。断片的に紹介される同書の粗筋と較べただけでも、本書はいかにも小粒で胸を打つ要素に乏しい。まさしく後日談以外の何ものでもなく、それどころか続編を書く意味さえ疑ってしまう。舞台は1767年、イギリス。ニューゲイト監獄から脱走した船乗りが財布を盗ったり盗られたりする珍道中はユーモラスで楽しいが、せいぜい幕間劇といったところ。船乗りが目ざす旅先の炭鉱村には、貧しい鉱夫一家が住んでいる。弟をいじめた相手と兄が決闘したり、その兄には好きな女の子がいたり、こちらは青春小説のおもむきで、一部盛り上がる場面もあるものの散発的だ。一方ロンドンでは、奴隷船に乗せられた黒人奴隷は、たんなる貨物なのか、それとも人間か、という争点で裁判が始まり、奴隷解放運動が次第に高まりつつあった当時の風潮を反映しているが、社会改革に情熱を燃やす兄妹の正義感が月並みで、法廷場面も緊迫感に欠ける。その妹と裁判相手の銀行家がおたがいに惹かれあい、どちらも熱くなったり現実の壁にぶつかったりの恋騒動。ほかにも地主貴族が登場するなど当時の社会構成を踏まえ、いろいろな立場の人間がからむエピソードを巧妙に織りまぜている点は買える。が、どの話も「胸を打つ要素に乏し」く、前作から20年、満を持して発表した後日談とはとても思えない。英語は擬古典的で語彙レヴェルが高く、会話はブロークンだが、総じて難解というほどではない。