ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barry Unsworth の “The Quality of Mercy” (1)

 Barry Unsworth の最新長編、"The Quality of Mercy"(2012)を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

[☆☆☆] 1992年のブッカー賞受賞作、"Sacred Hunger" の後日談。断片的に紹介される同書の粗筋とくらべただけでも、本書はいかにも小粒で胸を打つ要素に乏しい。まさに後日談以外のなにものでもなく、それどころか続編を書く意味があったのかとさえ思える。舞台は1767年、イギリス。ニューゲイト監獄から脱走した船乗りが財布を盗ったり盗られたりする珍道中はユーモラスで楽しいが、せいぜい幕間劇といったところ。船乗りが目ざす旅先の炭鉱村には、貧しい鉱夫一家が住んでいる。弟をいじめた相手と兄が決闘したり、その兄には好きな女の子がいたりと、こちらは青春小説のおもむきで、盛りあがる場面もあるものの散発的。一方ロンドンでは、奴隷船に乗せられた黒人奴隷はただの貨物か、それとも人間か、という裁判がはじまる。奴隷解放運動がしだいに高まりつつあった当時の風潮を反映したものだが、社会改革に情熱を燃やす兄妹の正義感が月並みで、法廷場面も迫力不足。その妹と裁判相手の銀行家がたがいに惹かれあい、どちらも熱くなったり現実の壁にぶつかったりと、恋愛小説に転じたはいいが高揚感に欠ける。総じておもむきの異なるエピソード集といった仕上がりで、波瀾万丈の物語に深い道徳的問題をからめた "Sacred Hunger" とくらべ、いやくらべなくても、「いかにも小粒で胸を打つ要素に乏しい」後日談である。