ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Marilynne Robinson の "Home"(1)

 今年のオレンジ賞受賞作、Marilynne Robinson の "Home" をやっと読み終えた。今まで3回の雑感ではついケチをつけてしまったが、最後でぐっと盛り上がり、読みの甘さを反省している。ともあれ、印象が薄れないうちにレビューを書いておこう。

Home: Winner of the Women's Prize for Fiction

Home: Winner of the Women's Prize for Fiction

[☆☆☆★★★] 結末で衝撃の事実が待っている。その一点を目ざして悲しみの渦が広がり、深まっていく。舞台は前作と同じくアイオワ州ギリアド。長老派教会の信者たちが住む架空の町で、死期の迫った老牧師ロバートのもとに帰ってきた娘グローリーの立場から、同じく帰省した兄ジャックと父親、グローリー自身をめぐる葛藤が描かれる。ジャックは若いころ、窃盗や飲酒など勝手気ままな生活を送り、女を妊ませて出奔、母の葬式にも顔を出さなかった放蕩息子だが、それだけにロバートは愛しくてならず、グローリーも兄姉たちのなかでいちばん気にかけている。ある程度予測のつく内容ではあるが、衰えた父親の世話をする子どもたちの帰郷の理由が次第に明らかにされ、それと同時に親子三人とも失意と傷心のうちにあることがわかる。その悲哀と苦悩がお互いにたいする愛情と重なり、読者の心をじわじわ締めつける。途中、山場らしい山場がさほどなく、一本調子なのが難点だが、なんのけれんもない悲しみの書ともいえる。最後に明かされる放蕩息子の秘密から、その人生をふりかえったとき、悲しみは極限に達する。悲しみのなかにこそ愛情があると、あらためて知らされる秀作である。