今年のブッカー賞候補作の一つ、Ed O'Loughlin の "Not Untrue and Not Unkind" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] 感傷をとことん排したハードボイルドタッチの
ルポルタージュ風小説だが、記録を綴る主人公
オーウェンの心の痛みが間接的に伝わってきて、読後はしばし呆然。読んでいる最中もさることながら、ふりかえればふりかえるほど重みを増す作品だ。
オーウェンは
アイルランドのベテラン新聞記者。同じく古参の同僚が死亡、その記録ファイルに入っていた写真を見て、10年前、アフリカ各地で取材に追われていた時代のことを回想する。何か大事件が起きたようだが、それが明らかにされるのは定石どおり終盤から。ザイール、南ア共和国、
シエラレオネ…住民の虐殺や反乱軍の襲撃など、時に緊迫した場面もあるが、当初は淡々と進む。やがてほかの報道記者やカメラマンたちとの交流が活発になり、とりわけ
オーウェンが女性記者と関係したあたりから、各エピソードに水面下の感情が読みとれて切ない。
即物的とも言えるドライな客観描写の行間に、じつは無限の悲しみがこめられている。加速度的に事件が進行、一気に爆発する終盤の展開は予想どおりだが、そこに巻きこまれた
オーウェンの心情もまた、いわば匂いたつように描かれている点がすばらしい。難易度の高い表現もけっこう多いが、英語はまず標準的で読みやすい。