昨年の全米図書賞(National Book Award)受賞作、Colum McCann の "Let the Great World Spin" をやっと読みおえた。さっそく、いつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆☆☆] 実質的には短編集と言っていい長編で、ニューヨークの今はなき
世界貿易センターの新築当時、ツインタワーのあいだを綱渡りした男の実話を中心に、世紀の快挙を見聞きした人々の物語をまとめたものである。往年の名画『輪舞』と同じく、次々に主人公が交代して、それぞれの人生模様が描かれる。綱渡りをした男にとって人生最高の瞬間、それと時を同じくして別人の身に起きた最悪の事件。しかしそれはまた、第
三者にとっては新たな人生の始まりを告げる契機でもあった、といったぐあいに、偶然の重なりをうまく利用しながら話をつないでいる。これを読めば読むほど、よかれ悪しかれ、人生には決定的な瞬間があることに思いを致さざるをえない。それがいつ、どんなかたちで訪れ、どれほど重大な意味を生みだすかは知るよしもない。そうした瞬間、つまり運命が過去・現在を通じて他人の運命と結びつき、おたがいにめぐりめぐって、ふしぎな人生の軌跡を描いていく。まさに「この世は輪舞」である。個々のエピソードとしては、肉親や恋人の死など喪失をテーマにすえたものが多く、行間からふと漂う静かな哀感に心を打たれる。一方、話者によっては陽気で饒舌、テンポのいい実況中継の場合もあり、静と動の
コントラストが鮮やかで、これまた短編集の味わいだ。英語の語彙レヴェルは比較的高いが、決して難解というほどではない。