ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Susan Fletcher の "Eve Green" と Margaret Forster の "The Memory Box"

 今年のコスタ賞(旧ウィットブレッド賞)のショートリストhttp://www.costabookawards.com/awards/shortlist.aspx を眺めると、旧作をもっているのは Rose Tremain のみで、しかも未読。お恥ずかしいかぎりだが、今から候補作を注文しても発表日までに届きそうもない。そこで、長らく積ん読だった04年の Whitbread First Book Award の受賞作、"Eve Green" を遅まきながら読んでみた。

Eve Green

Eve Green

[☆☆☆] 星は3つにしたが、けっこう楽しめる佳作。最初は散文詩的なスタイルで、さまざまな事件の断片や人物名が何の説明もなくちりばめられる。これに戸惑う読者もいるかもしれないが、実は女流作家がよく使う技法。しばらく我慢して読んでいると、やがて事件と人物関係の輪郭が見えてくる。母親が急逝し、ウェールズの田舎に住む祖父母のもとで暮らしはじめた少女が主人公で、その娘時代の出来事を成人した女性が回想する。顔も知らない父親はどんな人間だったのか。母との出会いは?村人の反応から、何やらスキャンダルの匂いが立ちこめてくる。一方、知りあいの少女が謎の失踪を遂げ、それに絡んでさらに別の大事件も起きたらしい…。疑惑の渦巻くミステリアスな展開で、次第に全貌が明らかになる過程が面白い。そこに愛の結晶があるのが好ましく、美しい田園風景の描写も心をなごませる。英語は平明で読みやすい。

 …読みだした途端、思い出した本が二冊ある。Margaret Forster の "The Memory Box" と、Trezza Azzopardi の "Remember Me" で、結論から先に言うと、その二冊のほうが優れているように思えた。というのも、処女作特有の欠陥として、作者が気負いすぎた結果、いろいろな要素を盛りこみすぎてしまい、そのため焦点がぼけてしまうことがある。本書もその 一例で、同じような作風と展開ながら、テーマを明確に絞った前掲二作と較べると損をしている。
 最初はとにかく謎だらけで、父親はもちろん、母親の正体も不明。二人はどういう人間で、どんな風に知り合ったのか。なぜ父親はいないのか。当初の興味はもっぱらそんなところだが、回想形式ということで、主人公が既に知っている真相を小出しにしているため、主人公と一緒にミステリを解く面白さはない。
 その点、"The Memory Box" では、母親が死ぬ前、思い出の品を収めた箱を赤ん坊の娘に遺し、やがて成長した娘がその箱をあけてみると、なんとも不思議な品々が入っている。そこにはどんな意味があるのだろう…という筋立てで、ミステリ的な要素がはるかに濃厚だ。

Memory Box

Memory Box

 しかも、落ちこんでいた主人公はその謎を解くことで母親の情愛を知り、復活への道を歩みだすという物語で、これを読んでいたく感動したぼくは某出版社にレジュメを送ったほどだが、あえなくボツになってしまった。
 "Eve Green" に話を戻すと、上記のように、両親の謎に関してサスペンスが盛りあがらず、いざ真相が示されても、それが主人公の人生に影響を与えているわけではない。その上、少女の失踪事件のほうに中心が移ったあとでは両親の存在は霞んでしまっている。
 まあ、本書は推理小説ではないので別にサスペンスが高まらなくてもいいのだが、作者は明らかに謎を提示しているのだから、せめてそれは解明に値する謎であって欲しい。つまり、解くことによって多少なりとも人生の真実が見えてくる謎である。"The Memory Box" にしても、決してぼくの希望を満たしているわけではないのだが、少なくとも、主人公は親の真の姿にふれることで生きる意味を見いだしている。そこが本書とは違う。(続く)