要するに "Eve Green" の場合、主人公の娘の両親に関する謎が次第に解き明かされるのはいいのだが、回想形式なのでサスペンス味は薄いし、示された真相に深い意味があるとは言えないのが難点だ。それにひきかえ、娘の知りあいの美少女が突然失踪する事件のほうは、同じ回想でも劇的な展開を見せるのでかなり読みごたえがある。ただ、真相が藪の中なのはいいとして、そこにどんな意味があるのかという点になると、これまた首をかしげざるをえない。結末が示すように、その謎は両親の謎と同じく、娘の現在の人生にとって核心を占めるものではないからだ。むろん、成長した娘が愛の結晶を産みだそうとしている背景に一連の事件があることは確かだが、それが背景にとどまっていることも間違いない。
ところが、Trezza Azzopardi の "Remember Me" では、謎の真相と主人公の人生が直結しており、しかも、それが読む者の胸を打つ愛の謎解きになっている点がすばらしい。
…"Eve Green" の主人公の娘もやはり赤毛で、父親の昔の所行のせいで村人から冷たい仕打ちを受けたりするが、まあそれだけのことだ。父はどんな人間だったのか、という興味をそそる伏線に過ぎない。ところが "Remember Me" の場合、謎が解けてみると、祖父に厳しくしつけられたり、級友に意地悪をされたりした副筋のエピソードでさえ、たまらなく切ないものに思えてくるのだ。"Remember Me" は一種の「文学ミステリ」なので、これ以上ネタをばらすわけには行かないが、要は謎にインパクトがある。
"Eve Green" をめぐってあれこれ論じてきたが、昨日のレビューにも書いたように "Eve Green" だけ見ればけっこう面白い。ただ、ぼくはたまたま、似たような設定の物語を先に二つも読んでいるために、どうしても比較しながら分析せざるをえない。が、こんな小説を初めて読んだのなら星数を増やしていたかもしれない。まったくいい加減なものだ。