ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Graham Greene の "The Honorary Consul" 

 昨晩、志賀高原から帰ってきた。当初はホテルで本を読もうと思っていたが、昼間に滑りすぎて頭が働かずダウン。そこで今日は3年前、「愛と現実の矛盾」と題してアマゾンに投稿、その後削除したレビューでごまかそう。

[☆☆☆☆] グリーン自身の分類によれば、本書は「ノヴェル」に属するものだろうが、べつに「エンタテインメント」と解しても結構。不倫あり、売春あり、テロありと、けっこう派手な物語の材料がそろっている。しかも各要素がそれぞれ例によって巧妙な語り口で綴られ、それがあまりに面白いので、いったいなにが言いたいのだろうと思っていると、やがて、善なる神がなぜ悪の存在を許すのかという弁神論の話。ああやっぱり、グリーンはカトリック作家だったのだ。しかしながら、テーマとしては弁神論ではなく、グリーンは愛の意味を問い直そうとしたのではないか。この世は誤解やすれ違い、裏切りで充ち満ちている。がしかし、だからといって愛を捨てさることはできない。けれども愛は現実の前にはかなく消えてしまう。といって愛を捨てることは……という愛と現実の矛盾。本書のおもな登場人物はみな、そうした矛盾に引き裂かれている。重いテーマだが、グリーンはその重さを感じさせることなく、抜群のストーリーテリングで処理。最後は、かすかな希望を感じさせながら余韻をのこして終わる。まさに名人芸である。