ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lisa Genova の "Still Alice"(1)

 午後に大腸内視鏡検査を受けるので今日は仕事を休み、朝から下剤と格闘しながら本書を読みおえた。今まで2回の雑感のまとめに過ぎないが、さっそくレビューを書いておこう。

Still Alice

Still Alice

  • 作者:Genova, Lisa
  • 発売日: 2009/01/06
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★] 最新の医学知識をもとに、若年性アルツハイマー病について読者の啓蒙をうながす愛と感動の物語。主人公はハーバード大学の女性教授で、終始一貫、彼女の立場から闘病生活が綴られる。学会の発表中、突然、なんでもない用語が思い出せなくなり、その後もジョギングの帰りに道に迷ったり、自分で書いたメモの意味がわからなかったり。そう、あの有名な難病の症状がなんと50歳の教授を襲ったのだ。以後の展開と結末は、この病気について一般に知られている事実とタイトルからおおよそ見当がつく。それゆえ意外性やサスペンスの味は乏しいが、このテーマで啓蒙を目的にフィクション化するなら、これ以外の展開はまず考えられない。いずれいまの自分をうしない、愛する家族とも別れなければならない不安、悲しさ、孤独感。名誉ある地位をうしなう屈辱、犠牲を強いられる家族との軋轢。どれも定石どおりの話だが、頭脳明晰な中年の大学教授を主人公にすえることで、この病気の恐ろしさがよくわかり、不治の病に冒された患者と家族の苦しみが痛切に伝わってくる。最後はこれまた予想どおりながら、感動的な愛のメッセージ。「アリスのままで」の意味が心にしみる秀作である。