ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jhumpa Lahiri の "Unaccustomed Earth"(1)

 今日は日曜なのに出勤。職場でジュンパ・ラヒリの新作 "Unaccustomed Earth" を読みおえ、仕事の合間にこっそりレビューを書きあげた。

Unaccustomed Earth

Unaccustomed Earth

  • 作者:Lahiri, Jhumpa
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: ペーパーバック
Unaccustomed Earth (Vintage Contemporaries)

Unaccustomed Earth (Vintage Contemporaries)

  • 作者:Lahiri, Jhumpa
  • 発売日: 2009/04/07
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆☆★] 人が人を愛するとき深い絆が生まれ、それと同じくらい深い溝が生まれ、その溝を超えようとするとき深い悲しみが生まれる。本書は愛の絆と断絶と悲しみをしみじみと描いた傑作短編集である。親子、夫婦、姉弟、そして男と女。ほかにも、さまざまな出会いがあり、心と心が通じあい、定めとしかいいようのない別れがある。その深さ、重みがどの作品を読んでいても胸にぐっと迫ってきて言葉をうしなう。各短編とも序盤は意外に即物的といってもいいほどの客観描写が淡々とつづくものの、物語の背景、人物関係などが手に取るように分かり、技巧を感じさせない技巧が光る。やがて核心につながる動きがあり、最後一気に盛りあがる。終幕へと向かう過程でも各人物の行動、室内のようす、風景など、いずれも感傷を排した筆致で丹念に描かれ、細部の叙述の底に深い情念が宿り、それが激しい感情のほとばしりとなって噴出。家族の愛、男女の愛が結晶化する瞬間だが、それを単なる愛の賛歌に終わらせないところにジュンパ・ラヒリの凄みがある。人が人を愛するとき、そこには人の力ではどうしようもない運命の力が働く。本書で描かれた愛の絆と断絶と悲しみは、そうした運命の重みをずしりと感じさせるものであり、その運命の前には作中人物も読者も深く沈黙せざるをえない。