今年の全米批評家協会賞受賞作、Joan Silber の "Improvement"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] 人生に迷っているひとが読めば心が晴れるかもしれない自己啓発小説。ただし、目からウロコの生きるヒントや、深いメッセージがこめられているわけではない。待てば海路の日和あり、そして人生腹八分。困ったときでもいつかは道がひらけ、その道を進めば当初の望みどおりでなくても、それなりに満足できるもの。とそんな事態の好転・改善例が数話、現代のニューヨークにはじまり、リッチモンド、1970年代のトルコ、ドイツをめぐってふたたび現代へ、という輪舞形式で紹介される。シングルマザーのレイナのもとに出所した恋人ボイドが戻ってきたのはいいが、ボイドはまたもや危ない橋を渡ることに。そのレイナの伯母は若い娘時代、冒険を求めてイスタンブールへ。このように、なんらかのかたちでつながる人物が入れ替わり立ち替わり登場。交通事故が起きたり恋が破局したりするなか、上の「好転・改善例」がユーモアをまじえ軽いノリで示される。どの顔ぶれも悩みはあっても些事にこだわらない性格で、心理描写もあっさりしたもの。といろいろ欠点は目につくが、これすべて、裏を返せばテーマにふさわしい長所ともいえる。深く考えず、スピーディで手ぎわのいい筆運びを楽しむべき水準作。