Günter Grass の "Cat and Mouse"(原作1961、英訳1997)を読了。周知のとおり、これは "The Tin Drum"(1959 ☆☆☆☆★★)に始まるダンツィヒ三部作の第二作である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 第二次大戦中、ナチス・ドイツ占領下のポーランドで青春時代を過ごした人びとにとって、反戦でも好戦でもない自由な立場はあったのだろうか。むろん、あるべくもないが、本書の主人公マールケの天衣無縫な生きかたは、可能と不可能の境界線を行き来するものだ。マールケの喉仏はネズミほどの大きさで、下の持ちものは馬なみ。そんな異形の姿にふさわしく、その行動も少年時代から終始一貫、信じられないほど型やぶりで度肝をぬき、周囲を圧倒している。聖母マリアへの崇拝と神わざのような悪戯、華ばなしい軍功とコミカルでエロティックな冒険、といった取りあわせもきわめて異色。全体主義体制のもと、ひとが自由に生きるためには、かくも異彩を放つ存在であらねばならぬのか。それならおよそ一般市民には自由なんぞ手に入るはずがない、という寓意も読みとれる本書だが、当初こそ突然の場面転換、話法のゆらぎ、そして上記のようなキャラクターの設定に幻惑されるものの、ひと皮むけば、じつはすこぶる正統的な青春小説であることが次第に見えてくる。戦時下でありながら悪友と遊びまわったあのころ。それは不自由という名の自由な時代だったのか。悪友への思いを綴った最後の一行が、たまらなく切ない。