ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

George Orwell の “Homage to Catalonia”(1)

 きのう、George Orwell の "Homage to Catalonia"(1938)を読了。使用した text は Penguin Books 版(1977年刊)で、続編 "Looking Back on Spanish War"(1943)もふくまれる。さっそくレビューを書いておこう。 

[☆☆☆☆★★] オーウェルはおそらく、考えるよりも先に目で見て感じる男だった。ただし鋭敏に。とりわけ、意気に感じる男だった。ふつうのひとがまともな生活を送りたいという願いを正義と感じ、その正義のために戦うことを正義と感じた。つぎにおそらく、考えるよりも先に行動する男だった。正しいと感じたことをすぐに行動に移す男だった。単純明快で純粋な男であり、自身認めているとおり、当初はナイーヴな理想主義者だった。けれども彼は作家であり、ものを書くためには考えなければならぬ。彼は考える。悪との戦いに中立はありえない。戦い、戦いに勝ち、生きのこらなければならぬ。だがそのためには敵を殺さなければならない。それは手を汚すことであり悪である。それが現実だ。かくてオーウェルは理想を夢見て現実を知る。と同時に戦闘をめぐり、理想と現実のはざまでゆれ動く。そこから理想と現実の双方に立脚するという「二本足の作家」が生まれ、彼の知的誠実もまたはじまる。中立がありえぬなら偏見をまぬかれることもまたむずかしい。間違いをおかすこともある。しかし彼は執筆の際、限界を承知のうえで精いっぱい正直であろうとする。目にした現実を極力正確に記述し、その奥に潜む本質を追究し、耳にした主義主張を裏づけるエビデンスを精査する。明白な不正と不合理に激しい義憤をおぼえる。と同時に、その怒りさえも冷静に分析する。冷静な現実認識と「二本足」のバランス感覚にもとづいて情勢を、進むべき道を判断する。そして最後、パースペクティヴな視点、世界史の流れのなかでスペイン内戦の意義を考える。そこには歴史を書き換える全体主義の恐怖や、マスコミの意図的な情報操作など、21世紀のコロナの時代にも通じる意義を読みとることもできる。けれども、もっとも深く心を打たれるのは、オーウェルが厳しい現実に直面して「ナイーヴな理想主義」を捨て、大いに幻滅しながらも、人間の良識をますます信じるようになり、良識という正義のために戦うことを理想としつづけたことである。本書はその戦いと、戦った人びとへの讃歌である。オーウェルはなによりもまず、信じる男だったのである。