ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Natasha Brown の “Assembly”(1)

 きのう、Natasha Brown の "Assembly"(2021)を読了。Natasha Brown は既報のとおり、ガーディアン紙で紹介された今年の有望新人作家のひとりで、本書は彼女の処女作。イギリスの文学ファンのあいだでは、ブッカー賞ロングリストに入選しそうな作品として評判になっている。さっそくレビューを書いておこう。 

[☆☆☆★★]「突然、ひどく不安そうに」という幕切れのことばに全篇のテーマが集約されている。恋人ルーの迷いを鋭く察知したヒロインもまた、決断をくだす前は大いに迷い、不安に駆られていたのだ。ジャマイカ系移民の血を引く彼女はロンドンの大手銀行に勤務。管理職への昇進とほぼ同時にがんを告知され、人生の岐路に立たされる。その心中でゆれ動くのは生きる苦しみであり、相変わらず差別意識のつよい白人社会における疎外感や虚無感であり、職業柄、既存の社会体制の恩恵にあずかる一方、それが旧大英帝国時代の植民地政策の産物であることへの違和感である。彼女は生活のため同化の必要性を認めつつ、帰属意識がもてぬまま、非人間的な社会での忍耐をしいられることに疑問をおぼえざるをえない。こうした非白人ならではの内的矛盾に引き裂かれ、病気への不安や仕事のストレスとあいまって、極度に神経が張りつめた状態でながめる情景の描写がすばらしい。偽善と欺瞞を鋭く衝いた社会批判も傾聴に値する。そんな彼女がルーの邸宅でもよおされたガーデンパーティで、ある人生の決断へと歩を進めていく。みずみずしい、研ぎ澄まされた感覚でとらえられた心象風景のスケッチ集である。