ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

Valeria Luiselli の “The Story of My Teeth” (2)

これはきのうのレビューで紹介したとおり、たしかに話としてはおもしろい。「現実とフィクションのコラボレーション」という試みも、まあいい。 問題はその話、その試みで作者が何を描こうとしているのか、である。 歯のオークションが始まり、モンテーニュ…

Valeria Luiselli の “The Story of My Teeth” (1)

先日発表された2015年のロサンゼルス・タイムズ紙文学賞(Los Angeles Times Book Prize for Fiction)の受賞作、Valeria Luiselli の "The Story of My Teeth" を読了。これは今年(対象はLAタイムズ紙賞と同じく2015年)の全米批評家協会賞の最終候補作で…

Paul Beatty の “The Sellout” (3)

本書の読みどころがコミカルな風刺にあることは間違いない。たとえば開巻、最高裁に出廷するべくワシントンを訪れた主人公は、こんな光景を目のあたりにする。'At the National Mall there was a one-man march on Washington. A lone white boy lay on the …

Paul Beatty の “The Sellout” (2)

久しぶりに P Prize. Com をのぞいてみたら、本書が今年のピューリッツァー賞の最有力候補に挙げられていた。ふむふむ、これは今年の全米書評家協会賞受賞作でもある。ひょっとしたら二冠達成かも、と思って取りかかった。 期待はずれ。P Prize. Com の予想…

Paul Beatty の “The Sellout” (1)

2015年の全米批評家協会賞 (National Book Critics Circle Award) 受賞作、Paul Beatty の "The Sellout" を読了。P Prize. Com の予想では、今年のピューリッツァー賞レースでも最有力候補だった。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書はこのあと…

Andre Alexis の "Fifteen Dogs" (5)

ぼくが本書でわりと共感を覚えた犬は Majnoun という雄のプードルだ。'Over the years, he thought about a thousand things, but two questions occupied most of his time. The first was about humanity. What, he wondered, did it mean to be human? Th…

Andre Alexis の "Fifteen Dogs" (4)

"Animal Farm" の動物たちが「当然のことのように」人間の言語を有しているのに対し、本書の犬たちはアポロ神から人間の知性を授けられた結果、人間の言葉を話すようになる。と同時に、人間のようにものを考えはじめ、やがて「正邪善悪の観念をもち、おのれ…

Andre Alexis の “Fifteen Dogs” (3)

Penguin 版の "Animal Farm" を書棚の奥から取り出したついでに、冒頭の一節を拾い読みしてみた。すると、"Fifteen Dogs" との違いにすぐ気がついた。 第2パラグラフはこうなっている。'As soon as the light in the bedroom [Mr & Mrs Jones'] went out th…

Andre Alexis の “Fifteen Dogs” (2)

動物が主人公の小説はたくさんあるはずだが、ぼくがパッと思い出すのはもちろん、George Orwell の "Animal Farm"。あれ以上の名作があるとはちょっと考えられない。名作のゆえんは、人間性にかかわる苦い真実がわかりやすく、おもしろく描かれているからだ…

Andre Alexis の “Fifteen Dogs” (1)

2015年のギラー賞(the Scotiabank Giller Prize)受賞作、Andre Alexis の "Fifteen Dogs" を読了。この賞は日本の一般読者にはなじみが薄いかもしれないが、カナダでは最も権威のある文学賞である。Fifteen Dogs作者:Alexis, AndréSerpent's TailAmazon[☆☆…

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (5)

まず今までの復習から。Camus の "The Stranger" を読み返すヒマはないので、推測でものを言うしかないのだが、同書の冒頭の一文 'Maman died today.' は、ニーチェの言葉をもじり、 'God is dead today.' と読み替えても何ら違和感はないように思う。「もし…

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (4)

またまた厄介な問題に首を突っ込んでしまった。まず、前回のあまりにもラフすぎる点を補足しておこう。「神なき不条理な時代には不条理な殺人が起こる」。では、信仰の篤い時代には不条理な殺人は起こらないのか。もちろん、そんなことはない。いつの時代で…

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (3)

Camus の "The Stranger" には、冒頭以外にも有名なくだりがある。Vintage 版を拾い読みしているうちにやっと見つけた。'The judge replied by saying that .... before hearing from my lawyer he would be happy to have me state precisely the motives f…

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (2)

Michiko Kakutani のレビューは読んでいない。なにしろあのNYタイムズ紙の書評家だ。読めば必ず勉強になると思うのだが、何であれ取りかかる前は彼女にかぎらず、誰の批評もいっさい目にしないことにしている。(じつは読後も皆無に近い)。及ばずながら、ま…

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (1)

Kamel Daoud の "The Meursault Investigation" (2013) を読了。巻末の紹介によると、Daoud はアルジェリア人ジャーナリストで、原書はフランス語で書かれ、ゴンクール賞最終候補作とのこと。英訳版は昨年、ニューヨーク・タイムズ紙の書評家 Michiko Kakuta…

"The Meursault Investigation" 雑感

Kamel Daoud の "The Meursault Investigation" (2013) を読んでいる。これは去年、ニューヨーク・タイムズ紙の書評家 Michiko Kakutani が選んだ My Favorite Books of 2015 の一冊である。 という予備知識だけで取りかかり、タイトルもろくに確認しなかっ…

Donna Tartt の “The Secret History”(2)

Donna Tartt といえば一般には、ご存じ "The Goldfinch" (2013) で一躍有名になった作家である。それまではこの "The Secret History" (1992) が長らく代表作だった。 ぼくが初めて彼女の名前を目にしたのは何年前のことか憶えていない。きのうは Penguin 版…