ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

”Madame Bovary” 雑感(1)

少し前にアメリカのベストセラー、Elin Hilderbrand の "A Summer Affair" を読んだとき、「世界文学の古典には『アンナ・カレーニナ』、『ボヴァリー夫人』、『チャタレー夫人の恋人』、『情事の終り』など…不倫を扱ったメロドラマが目白押し」だが、「そう…

Michael Thomas の "Man Gone Down"(2)

「個人の精神的危機、魂の試練をとことん描いたこの作品は、現代文学が文学として成り立つテーマと技法を端的に示した一例と言えるかもしれない」。レビューでずいぶん大風呂敷を広げてしまったものだが、失笑されるのを覚悟の上で、今日はこの点について細…

09年ブッカー賞ロングリスト(Man Booker 2009 longlist)

今年のブッカー賞のロングリストが発表された。http://www.themanbookerprize.com/prize/thisyear/longlist ここ何年かは新人賞のおもむきもあった同賞だが、今年の顔ぶれを見ると、既読の作家だけ拾ってみても、A.S.Byatt, J.M.Coetzee, Colm Toibin, Willa…

Michael Thomas の "Man Gone Down"(1)

昨日報告したとおり、Michael Thomas の "Man Gone Down" をやっと読みおえたのでさっそくレビューを書いておこう。これは周知のとおり今年の国際IMPACダブリン文学賞受賞作で、また一昨年のニューヨーク・タイムズ紙選定年間優秀作品のひとつでもある。Man …

"Man Gone Down" 雑感(5)

やっと読みおえた! 今は感動に打ち震えているところ…というわけでもないが、大げさに言えば、これは現代文学、少なくとも英米文学におけるひとつの方向を端的に示した作品のような気がする。とはいえ、今日は大風呂敷を広げる余裕も、いつものようにレビュ…

"Man Gone Down" 雑感(4)

これは読めば読むほど味のある小説だ。初めのうちこそ、自己破産して妻子と別れた男の内的独白が散漫に続くように思えたのだが、中断ののち改めてじっくり取り組んでみると、ぼんやり読んでいたときには気づかなかった本書の美点が見えてきた。それをひとこ…

"Man Gone Down" 雑感(3)

ようやく半分を通過。何とか目鼻がついてきた。昨日は本書を「内省小説」と呼んだが、これはたしかに「内的独白小説」、それもハードボイルド型の内的モノローグ小説かな、という気がする。 まあ、名称はどうでもいいが、とにかく基本的には、主人公の心に去…

"Man Gone Down" 雑感(2)

このところどうも気分がすぐれず、活字からいっさい離れた生活を送っていたが、今日になってやっと本書に再び取りかかった。 中断したのは第1部の後半だが、このくだりは主人公の意識の流れというか内省や回想が続き、ストーリーはほとんど進行しないので好…

"Man Gone Down" 雑感(1)

これはかなりシンドイ作品だ。このところ軟派路線に走っていたので、たまにはガツンと堅めのものを読もうと、今年の国際IMPACダブリン文学賞の受賞作に取りかかったのはいいが、老化と怠惰でふやけた脳ミソにはちと厳しい。 まずストーリーが直線的には進ま…

Elin Hilderbrand の "A Summer Affair"(2)

本書はとにかく、題名から判断して「展開も結末も見え見え」とは思ったのだが、何しろニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに入っているということで(Trade Paperback 部門第11位)、人気の秘密は何だろうと前から少し気になっていた。どうせ陳…

Elin Hilderbrand の "A Summer Affair"(1)

最近はカタツムリ君だったが、本書は珍しくさっさと読みおえた。おかげで気分も梅雨明けに近い。印象が薄れないうちにレビューを書いておこう。A Summer Affair作者: Elin Hilderbrand出版社/メーカー: Hodder Paperback発売日: 2009/03/05メディア: ペーパ…

"A Summer Affair" 雑感(2)

これはめっちゃくちゃオモロー!(もうかなり古い)。大筋は「不倫話をどんどんドライブしていくだけ」の大衆小説なのだが、さすがにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに載っているだけのことはある。 その面白さの要因を挙げる前に、これはな…

"A Summer Affair" 雑感(1)

やっと梅雨が明け、いよいよ夏到来! この季節、日本の出版社では「○○文庫の夏」などと称して読書特集を組むところがあるが、あちらでも毎年、Richard & Judy Book Club や英米アマゾンなど、ただし日本と違って新刊を中心に推薦図書をリストアップしている…

Marisa de los Santos の "Belong to Me"(2)

計6回もああだこうだと、いや同じような雑感を書きつらねたおかげで、さすがにもう新しい内容を付け加えるまでもないだろうと思ったが、主な人物が一堂に会するフィナーレに至り、おや、このノリはどこかで見た憶えがあるぞ、とひらめいた。その結果、「古…

Marisa de los Santos の "Belong to Me"(1)

ほんとうは2,3日もあれば楽勝の本だが、諸事情のため昨日やっと読みおえた。宮仕えのつらいところだ。グチはさておき、さっそくレビューを書いておこう。Belong to Me: A Novel作者: Marisa de los Santos出版社/メーカー: William Morrow Paperbacks発売…

"Belong to Me" 雑感(6)

『大辞林』(第2版)でヒューマニズムの定義を調べると、「人間中心、人間尊重を基調とする思想態度。『人間』の捉え方により種々の形態がある」。さらに、『ランダムハウス英和』によれば、「人間的興味・価値・品位・尊厳を中心とする思考[行動]様式」と…

"Belong to Me" 雑感(5)

たしかに本書は、「いろいろな食材をうまく混ぜ合わせておいしく料理し」た「ごった煮小説」である。ひとつひとつのエピソードやテーマはありきたりで、その点だけ見ると「三文小説そのものと言ってもいい」のに、それが「さながら日替わりランチのように出…

"Belong to Me" 雑感(4)

つまりここには家庭小説、青春小説、恋愛小説など、さまざまな要素が混在し、それがさながら日替わりランチのように出てくる。おかげで今、電車の中でコマギレに読んでいても、話のつながりさえ憶えておけば充分楽しい。 こういうタイプの総合小説、いや違う…

"Belong to Me" 雑感(3)

相変わらずカタツムリの速さ、いや、のろさだが、本書の特徴がいくつか見えてきた。まず、前作 "Love Walked In" が恋愛小説と青春小説の二本柱だったのに対し(いかにもまことしやかだが、じつはあまり記憶がなく、以前のレビュー http://d.hatena.ne.jp/sa…

"Belong to Me" 雑感(2)

職場は今や「農繁期」たけなわで、Marisa de los Santos の "Belong to me" も、英語は簡単なのにカタツムリの歩みでしか進まない。それでもまあ、何とか新しい駄文を綴れそうなところまでたどり着いた。 前回、「何となく物語が透けて見えるのが気にかかる…