2015-01-01から1年間の記事一覧
さて、いよいよ表題作である。雑感(1)でもふれたように、この邦訳を読んだのはなんと半世紀前、中1の時だった。今は亡き父が買ってくれた世界文学全集の第1回配本がたしかヘッセ集で、ぼくは当時からへそ曲がりだったせいか、有名な『車輪の下』や『デ…
はてさて、いつになったら表題作にたどり着けるのやら。本ブログを再開した当初は、一気にお目当ての『クリングソル』をネタに雑談ができるものと思っていたが、なんのなんの。メモを頼りに拾い読みした "A Child's Heart" と "Klein and Wagner" がじつに内…
初読のときは気がつかなかったが、目についた箇所を読み返してみると、たしかに巻頭の短編 "A Child's Heart" と次の中編 "Klein and Wagner" には共通点がある。まず、どちらも主人公は内省的な人物だ。そしてその内省、自己検証はもっぱら、自分の心中にあ…
還暦もとうに過ぎると、運命というのはやっぱり本当にあるのかも、と思うことがある。「そう思えばそう思えるのが運命か」と、この夏、田舎の友人と話し合ったばかりだ。本との出会いしかり。 その夏休み、田舎で "Klingsor's Last Summer" を読もうと思った…
本書はなにしろもう2ヵ月近く前に読んだので、所収2編めの "Klein and Wagner" についてもウロ憶えの箇所が多い。そこでメモを頼りに改めて拾い読みしながら拙文を書いている。 すると、例によって見落とした点が多いのにウンザリさせられるが、それでも K…
本ブログを再開した初回にも書いたことだが、例によって不勉強のぼくには、ヘッセといえば『車輪の下』や『デーミアン』などで有名な青春小説作家、くらいの認識しかなかった。ところが、巻頭の短編 "A Child's Heart" に引きつづき、中編 "Klein and Wagner"…
つい脱線してしまった。"Klein and Wagner" にまた話を戻そう。公金を横領した Klein はイタリアへの逃避行を続けるうち、二人の Wagner に思いを馳せながら内心の声に耳を傾け、自分が表向きは善良な市民でありながら、実際は「フォニー」であり、犯罪を犯…
なるほど確かに、"Klein and Wagner" とは簡にして要を得た題名である。いい加減に読んでいたときはべつに何とも思わなかったが、二人の Wagner について詳しく分析してみると、これ以外にはちょっと考えられないタイトルだ。 そこで遅まきながら気がついた…
というわけで、"Klein and Wagner" に出てくる大作曲家ワーグナーは、主人公の Klein にとって、自分を「フォニー」と規定する自己批判、自己嫌悪、みずからあばいた自己欺瞞の根拠のひとつだったことになる。 おもしろいことに、それはもうひとりの Wagner …
肝心の表題作の話になかなかたどり着かない。その前にまだ中編 "Klein and Wagner" が残っている。巻頭の短編と同じくこれも初読だったが、『クラインとワーグナー』という題名には何となく聞きおぼえがある。邦訳があるかもしれませんな。 主人公の Klein …
巻頭の短編 "A Child's Heart" に関連して、もうひとつだけ「バリザンボーを浴びそうな発言」をしておこう。 今まで述べてきたことをまとめると、主人公の11歳の少年はまず、成長とともに自分の心の中に潜む悪を自覚している。'....how could I have become …
昨日はうっかり、「善から悪が生まれる」のが「見方によっては人間にとって最大の不幸」などと知ったかぶりで書いてしまったが、もちろんぼく自身、この真実を身にしみて実感しているわけではない。"A Child's Heart" の主人公の言葉を借りて言えば、せいぜ…
表題作を読もうと思って取りかかった本書だが、じつは巻頭の短編 "A Child's Heart" の中から前回引用した箇所が、知的な昂奮をいちばん覚えるところかもしれない。 まず表現から詳しく見てみよう。'Perhaps for the first time in my life' とある以上、こ…
巻頭の "A Child's Heart" だが、ストーリーそのものは、まあ、どうってことはない。要するに、「子供が親にウソをついてバレる話」である。 その中心にすえられているのが「無垢と経験」という、これまた青春小説としてはありきたりのテーマなのだ。それゆ…
巻頭の短編 "A Child's Heart" は初読。邦訳があるのかどうかは知らないが、タイトルどおりの青春小説で、その意味ではヘッセ十八番の題材と言えるかもしれない。ただし、これは今やうっすらとしか憶えていない『車輪の下』や『デーミアン』がおそらく彼の代…
長らく本ブログを休止していたが、このシルバー・ウィークを利用してボチボチ再開することにした。 まず採りあげようと思ったのは、Hermann Hesse の英訳中短編集 "Klingsor's Last Summer"。ヘッセといえば、誰でも思い浮かべるのは『車輪の下』とか『デー…