ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Dinaw Mengestu の "The Beautiful Things That Heaven Bears"

 米アマゾンが選んだ年間優秀作品の一つ、Dinaw Mengestu の "The Beautiful Things That Heaven Bears" は、ガーディアン紙の処女長編賞受賞作でもある。http://www.amazon.com/gp/feature.html/ref=amb_link_5833012_13?ie=UTF8&docId=1000158641&pf_rd_m=ATVPDKIKX0DER&pf_rd_s=center-5&pf_rd_r=191VXDGAMF8E2XEZ5R4T&pf_rd_t=101&pf_rd_p=324314401&pf_rd_i=383166011

The Beautiful Things That Heaven Bears

The Beautiful Things That Heaven Bears

[☆☆☆★★] アメリカの移民小説は数多くあるが、大河ドラマ式を避けた構成の巧みさが光り、切ない読後感が心に残る佳作。主人公はワシントンに住むエチオピア出身の男で、食料雑貨店を営んでいるが左前。同じくアフリカ系の友人たちが訪ねてきてかわす会話は、しけた話題が多いわりには活発でテンポがいい。そこに半年前の回想が混じる。隣りの邸宅に白人女とその娘が引っ越してきたのだ。やがて男は女と意気投合、小学生ながらドストエフスキーを読むほど早熟な娘との交流が始まる。前半はざっとそんな話だが、男と娘のやりとりが楽しいし、回想と現在がどう結びつくのかという興味も手伝ってどんどん読み進んだ。後半は移住や店の経営不振のいきさつなど、前半の背景が時系列的に説明され、いきおい話は暗くなるが引きこまれる。男と女、娘の出会いと別れに胸がきゅんとなり、祖国を離れてから続く宙ぶらりんの生活を思うとやるせない。英語は平明で読みやすい。

 …テーマは最後の一ページに集約されている。要は宙ぶらりんの移民生活ということだが、途中の苦労話も含めておなじみの題材にもかかわらず読ませる。定番ながら現在の時間進行に回想を混ぜあわせた構成が見事だし、歯切れのいい文体のおかげで暗い話が妙に明るく感じられるほどだ。
 が、結局のところ、この「明るさ」を生みだしているのは主人公のたくましさだと思う。最後のワンセンテンスが示すように、男は悲哀を感じつつも絶望はしていない。そのたくましさに救いがある。本書の題名はダンテの『神曲・地獄篇』の一節からとったものだそうだが、エチオピア革命で父親を殺されたり、地上げにあって店の経営が苦しくなったりしても、地獄の中にも救いありといったところだろうか。
 また、ここでは人間観察の妙も楽しめる。高級レストランで働いているコンゴ出身の友人が主人公に店への訪問を勧めておきながら、いざ訪ねてみると何とも形容しがたい顔をする。作者自身の体験ではないかと思えるほどリアルな場面で忘れられない。そして何より、ちょっとした一言で感情の食い違いが生じる男と女の関係。よくある話だが、不安定な移民生活を象徴する一件だけに胸を締めつけられる。移民系作家の作品をシリーズ化している出版社もあるようなので、いずれ翻訳も出るのではないか。