ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

"Moby-Dick" と「闇の力」(20)

イシュメールは「観察者としての役目」を果たすべく、五千年前と変わらぬ人間の永遠の姿を伝えるために生き残った。が、その役目はともかく、一人でも生き残ったことにより、ひとつ明るい意味が生まれている。どんなに恐ろしい流血の悲劇が起ころうとも、人…

Karen Kingsbury の "Sunrise"(1)

Sunrise作者: Karen Kingsbury出版社/メーカー: Tyndale House Pub発売日: 2007/05/08メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る[☆☆☆★★★] 新シリーズの第1作…にしては旧シリーズの登場人物ばかりで、それぞれのエピソードも以前の続き。ま…

今年のコスタ賞とアレックス賞(2009 Costa Book Awards & 2009 Alex Awards)

今年のコスタ賞は予想どおり、Sebastian Barry が受賞した。http://www.costabookawards.com/press/press_release_detail.aspx?id=71 受賞作の "The Secret Scripture" が手元に届くのは2月の頭になりそうだ。The Secret Scripture作者: Sebastian Barry出…

"Sunrise" 雑感(3)

知り合いの女史に、最近何か面白い本はないかと尋ねられた。このところ、よんどころない事情で物理的時間も精神的余裕もなく、落ち着いて本が読めないぼくは返答に窮したが、さらに女史いわく、「あなたは日本人なのに、なぜ英語の本ばかり読んでいるのか」 …

"Sunrise" 雑感(2)

"The Shack" の「情緒的な弁神論」にはいささか鼻白んでしまったが、相変わらずボチボチ読んでいる Karen Kingsbury の "Sunrise" は、同じ「愛と救済の物語」でも、救済に余計な理由づけがないぶん安心して読める。ぼくはキリスト教信者ではないが、さりと…

単語録:and everything

and everything という成句について英和辞典を調べると、「その他もろもろ」「〜など」「〜のようなもの」とあり、次のような用例が載っている。Tina's worried about her work and everything.「ティナは仕事やらその他もろもろで悩んでいる」(ロングマン) …

William P. Young の "The Shack"(2)

つい最近まで知らなかったのだが、昨年6月22日の日記 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080622 で、「べつに大した小説ではない。キリスト教関係を除けば、日本の出版社が飛びつく可能性も少ないものと思われる」と書いた William P. Young の "The Shac…

単語録:awake

awake は形容詞なら「目が覚めて」、動詞なら「目を覚ます」という基本単語だが、手持ちの英和辞典を調べた限り、「意識が回復して」、「意識を回復する」という訳語を載せているものはなかった。そこで英英辞典を引くと、どれもだいたい not asleep, not sl…

単語録:demeaning

今まで英米を中心に日本や世界各国の文学、映画やクラシック音楽のことも書いてきたが、そろそろネタ切れの感があり、今日から少しずつ別の話題も採りあげることにした。題して「単語録」。初回は demeaning について。 demean という他動詞は、『ジーニアス…

コスタ賞の行方(2)と "Sunrise" 雑感

いささか旧聞に属するが、コスタ賞の部門賞が発表されている。http://www.costabookawards.co.uk/awards/category_winners.aspx 処女長編賞は Sadie Jones の "The Outcast" で、これはかなり前からアマゾンUKではベストセラーになっている。The Outcast作…

08年下半期ベスト3と年間ベスト3

遅ればせながら、昨年の下半期に読んだ本の中からベスト3を選んでみた。 1.That Summer in Paris作者: Abha Dawesar出版社/メーカー: Anchor発売日: 2007/08/14メディア: ペーパーバック クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る(詳細は昨年7月…

"Moby-Dick" と「闇の力」(19)

そしてイシュメールだけが生き残った。なぜか。白鯨の意味と同様、この謎についても昔からいろいろな解釈が試みられてきたはずだが、すべて失念。若い頃に "Moby-Dick" を読んだときもあまり気にしなかった。 そこで今回、八木敏雄訳でエピローグを読み直し…

木山捷平の「五十年」

Joseph O'Neill の "Netherland" を読んでいて、ふと思い出した詩がある。木山捷平の有名な詩、「五十年」だ。 濡縁におき忘れた下駄に雨がふつてゐるやうな どうせ濡れだしたものならもつと濡らしておいてやれと言ふやうな そんな具合にして僕の五十年も暮…

Graham Greene の "The Honorary Consul" 

昨晩、志賀高原から帰ってきた。当初はホテルで本を読もうと思っていたが、昼間に滑りすぎて頭が働かずダウン。そこで今日は3年前、「愛と現実の矛盾」と題してアマゾンに投稿、その後削除したレビューでごまかそう。The Honorary Consul作者:Greene, Graha…

Joseph O'Neill の "Netherland" (4)

昨日から志賀高原で2年ぶりにスキー。ケータイを使ってこれを書いているが、昨日は送信ミス。今日はさて、うまく更新できるかどうか。 "Netherland" は主人公がニューヨークで体験したどん底時代の回想が中心だが、彼は現在、別居していた妻子と一緒にロン…

Joseph O'Neill の "Netherland"(3)

本書が「文学作品」であるゆえんはずばり、これが人生の意味や価値をめぐる心の彷徨記であると同時に、読者自身に自分の人生をふりかえらせる説得力を持っているからだ。古びたテーマである。しかし読みがいがある。お定まりのテーマを陳腐に感じさせない真…

Joseph O'Neill の "Netherland"(2)

本書を読みながら考えたことのひとつは、まず、純文学とは何か、という問題だ。何を今さら、と思われるような陳腐な問題だし、小説のジャンル分けなんぞ、どうでもいいと自分でも思いつつ、やはり気になった。 というのは、これはストーリーとしては決して面…

Joseph O'Neill の "Netherland"(1)

年末年始はCDとDVDで自堕落な生活を送ってしまったが、4日から仕事が気になり、「自宅残業」をボチボチ開始。その合間に Joseph O'Neill の "Netherland" を何とか読みおえた。Netherland: A Novel作者: Joseph O'Neill出版社/メーカー: Pantheon発売…

『赤い風船』

正月3日目はクラウス盤でウィンナー・ワルツを聴いた。シュトラウス・ファミリー・コンサート Vol.1アーティスト: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,J.シュトラウス,Jo.シュトラウス,クラウス(クレメンス)出版社/メーカー: ポリドール発売日: 1997/07/16…

ヒッチコックの『ロープ』

正月2日目はまず、鈴木雅明盤でバッハのクリスマス・オラトリオを聴いた。J・S・バッハ:クリスマス・オラトリオ (2CD)[Import CD] (J.S. Bach Weihnachts-Oratorium Christmas Oratorio)アーティスト: 鈴木雅明(指揮)バッハ・コレギウム・ジャパン,米…

『寅次郎ハイビスカスの花』

元日は2年ぶりに鶴岡八幡宮に参拝。朝早かったせいか、まだ通行規制もなく、バス停から脇道を経て本殿へすっと登れた。その昔、雪の舞い散るなか、まだ小さかった子供を抱きながら通ったルートだが、参拝のたびにあのときの光景を思い出す。なぜあの場面が…

『おはん』

大晦日の晩はまず、例によってバイロイト盤で第9を聴いた。ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第9/第2世代復刻]アーティスト: ヘンゲン,ホップ,シュヴァルツコップ,エーデルマン,フルトヴェングラー(ウィルヘルム),バイロイト祝祭管弦楽…