ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

Ottessa Moshfegh の “Eileen” (1)

今年のブッカー賞最終候補作、Ottessa Moshfegh の "Eileen" をゆうべ読了。ひと晩寝かせたところで、さて、どんなレビューが書けますやら。Eileen: Shortlisted for the Man Booker Prize 2016作者:Moshfegh, OttessaRandom House UK LtdAmazon[☆☆☆★] なる…

"Eileen" 雑感 (2)

いま読んでいるのは、行きの電車で "Eileen"、帰りの電車で "Young Skins"、そして寝床で『風味絶佳』。おかげでどれも少しずつだが、3週目に入った山田詠美だけはやっと終わりそうになってきた。 3冊ともおもしろい。ただ、そのおもしろさは、どれも知的…

"Eileen" 雑感 (1)

きのう Ottesssa Moshfegh の "Elieen" と、Madeleine Thien の "Do Not Say We Have Nothing" を落手。アマゾンUKに注文していたものだが、同時に日本経由で頼んだもう1冊のブッカー賞候補作は発送もされていない。どうなってんだろ。 上の2作のうち、薄…

Sandor Marai の “Embers” (4)

Sandor Marai の作品が wiki の記述どおり、「ヨーロッパ文学の正典の一部」ではないかと推測するゆえんはもうひとつある。それは、彼が「国家や民族、文明、文化、歴史などの問題を見すえた巨視的な人間観」の持ち主であると同時に、人間の心の中を真摯に見…

Sandor Marai の “Embers” (3)

雑感で紹介したように、wiki によると、Sandor Marai の諸作は「今日では、20世紀ヨーロッパ文学の正典(カノン)の一部と見なされている」。ぼくは今回 "Embers" を読んだだけだが、この記述はどうやら正しいのではないかという気がする。 今さら言うまでも…

Sandor Marai の “Embers” (2)

これは雑感で紹介したように、世界有数の文学ブロガーだったカナダの故 Kevin 氏が、2014年のベストテンに選んでいた作品である。Sandor Marai という作家、もちろんぼくは初耳だった。Kevin 氏の守備範囲はほんとうに広かった。 が、不遜なことに、本書にか…

Sandor Marai の “Embers” (1)

ハンガリーの作家 Sandor Marai(ハンガリー語の表記は Marai Sandor)の "Embers" を読了。初版は1942年刊。本書は2001年に出された英訳版である。さっそくレビューを書いておこう。Embers (Vintage International)作者:Marai, SandorVintageAmazon[☆☆☆★★★]…

"Embers" 雑感 (3)

本書における〈現代〉は1940年。舞台はハンガリー辺境の地にある森の中の城。そこに年老いた将軍 Henrik が住んでいる。その Henrik のもとに手紙が届く。士官学校時代の旧友 Konrad がなんと1899年以来、ほぼ40年ぶりに訪ねてくるという。 これが冒頭で、話…

"Embers" 雑感 (2)

本書の作者 Sandor Marai(1900 - 1989年)は、wiki によるとハンガリーの作家。ハンガリー語圏では日本人の名前と同じく、名字から先に Marai Sandor(マーライ・シャーンドル)と表記するのだそうだ。 ハンガリーでは著名な作家だったらしい。反ナチス、反…

"Embers" 雑感 (1)

まず、今年のブッカー賞ショートリストについて。13日の昼に勤務先のパソコンで〈ぼくの予想〉を掲載したあと(いかん、これが社長の目にとまるとマズイ)、帰宅して The Mookse and the Gripes を覗いたら、もうショートリストの discussion が始まっていた…

2016年ブッカー賞ショートリスト発表(The Man Booker Prize 2016 Shortlist)

今年のブッカー賞ショートリストが発表された。(この情報は、ぼくのアンテナに掲載している The Mookse and the Gripes で入手。公式発表以前の速報かもしれない。この記事も実際は13日に書きました)。本ブログに掲載した予想のうち、的中したのは "The Se…

ぼくの2016年ブッカー賞ショートリスト予想

今年のブッカー賞ロングリストに選ばれたのは、なぜか13作。このうち、ぼくが読んだのは6作だけ。しかも、ロングリスト発表以後に読んだのはたったの4作だから、あちらのファンの読書量とくらべるとお寒いかぎりだ。 だから「予想」と題してもヤマカンに近…

Ian McGuire の “The North Water” (2)

きのうカバー写真をアップしたペイパーバックは来年1月発売予定。ぼくがイギリスから取り寄せたハードカバーは、なぜかアップできる選択肢にはなかった。 そこでアマゾンUKを調べると、レビュー数59で星4つ半。各社のオッズどおり、ブッカー賞レースの対抗…

Ian McGuire の “The North Water” (1)

今年のブッカー賞候補作、Ian McGuire の "The North Water" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The North Water: Now a major BBC TV series starring Colin Farrell, Jack O'Connell and Stephen Graham作者:McGuire, IanSimon + Schuster UKAmazon…

"The North Water" 雑感

まず "All That Man Is" の最後の補足から。ぼくが思わず落涙しそうになったのは、第9話の幕切れ寸前だ。過去に心臓手術を受け、今また交通事故にあった70代の老人が退院後、レストランで娘と食事をしている。'In a sense this love he feels [for his daug…

David Szalay の “All That Man Is” (4)

きょうは疲れた。なるべく短くすませよう。 見方によっては長編とも言えるこの短編集で、ぼくがいちばん感動したのは最後の第9話。思わず目頭が熱くなった。 以下は、そのくだりではない。70代の老人が孫の書いた詩を目にする。その詩にこんな一節がある。'…

David Szalay の “All That Man Is” (3)

おととい Sandor Marai の "Embers" を読みはじめ、きのうもその続きを、と思いながら帰宅してみると、Ian McGuire の "The North Water" が届いていた。急遽そちらを読みはじめたところ、なかなかおもしろい。 で、きょうは結局、"The North Water" をかな…

David Szalay の “All That Man Is” (2)

きょうは軽い話。まずオッズ情報だが、本書は第二集団のトップといったところ。ぼくのアンテナに登録している The Mookse and the Gripes を覗くと、本命に挙げているファンもいるが、多数意見ではないようだ。 そんなのどうでもいい、といつもなら言うとこ…

David Szalay の “All That Man Is” (1)

今年のブッカー賞候補作、David Szalay の "All That Man Is" をきのう読了。ひと晩「寝かせた」ところで、さてどんなレビューが書けますやら。All That Man Is: Shortlisted for the Man Booker Prize 2016作者:Szalay, DavidJonathan CapeAmazon[☆☆☆★★★] …

"All That Man Is" 雑感

先週の日曜日に David Szalay の "All That Man Is" を読みはじめたのだが、月曜日に J. M. Coetzee の "The Schooldays of Jesus" を落手。そこで一に Coetzee、二に Szalay という時間配分で読みつづけた。あ、こう書くと何も仕事をしていないように聞こえ…

J. M. Coetzee の “The Schooldays of Jesus” (5)

もうひとつだけ補足しておこう。本書でいちばん注目すべき人物は悪党の Dmitri かもしれない。むろん前作同様、Simon が語り部としての主人公で、彼の目から見た David がタイトルを象徴する主人公だが、この二人に次ぐ「活躍」を見せるのが、新たに登場した…

J. M. Coetzee の “The Schooldays of Jesus” (4)

上滑りで尻切れとんぼの問答は、ほかにもたくさんある。(Simon) '.... if you were in the desert, dying of thirst, you would give everything you owned for just a sip of water.' 'Why?' says the boy [David]. 'Why? Because staying alive is more im…

J. M. Coetzee の “The Schooldays of Jesus” (3)

前作 "The Childhood of Jesus" を読んだときは思いおよばなかったが、今回はたまたま今年の初め、Tolstoy の "Childhood, Boyhood, Youth" を再読していたのでふと考えた。「もし草葉の陰でトルストイが本書を読んだとしたら、怒り心頭、投げ出してしまった…

J. M. Coetzee の “The Schooldays of Jesus” (2)

前々回にも書いたとおり、本書は「英米とも8月刊行というのに、7月発表のロングリストに堂々と載っている。いったいどうなってるねん?という不満の声が、あちらのファンのあいだからたくさん上がったものだ」。この情報は、ぼくのアンテナに登録している …