ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2022-01-01から1年間の記事一覧

William Faulkner の “The Unvanquished”(1)

きのう、William Faulkner の "The Unvanquished"(1938)を読了。ミシシッピ州の架空の町ヨクナパトーファ郡ジェファーソンを舞台とするヨクナパトーファ・サーガのひとつで、7つの連作短編をまとめた作品である。さっそくレビューを書いておこう。(「な…

Antonio Tabucchi の “Requiem: A Hallucination”(2)

うかつだった。落ち穂拾いをしようと思って本書を手に取ったら、なんと Tabucchi 自身による巻頭の Note にこんな一節があった。But this book is, above all, a homage to a country I adopted and which, in turn, adopted me, and to a people who liked …

Antonio Tabucchi の “The Edge of the Horizon”(2)

ぼくはいままで同じ作家の作品をつづけて読むことはなるべく控えてきた。連続して接すると、英語的に読みやすい、その作家の特徴をつかみやすいというメリットはあるものの、反面、新鮮味に欠ける憾みもある。それよりむしろ、未知の作家はもちろん、旧知の…

Antonio Tabucchi の “Indian Nocturne”(2)

『インド夜想曲』。なんと蠱惑的なタイトルだろう! そう思って、ほかに目についた作品ともども、英訳版を買い求めたのはずいぶん昔の話。以来、Tabucchi のことはずっと気になっていた。 その積ん読の4冊をやおら書棚から取り出したのは先月なかば。Faulkn…

Patrick Modiano の “Ring Roads”(1)

きのう、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の第三作、"Ring Roads"(原作1972, 英訳1974)を読了。本書は "The Occupation Trilogy"(2015)の第三巻でもある。さっそくレビューを書いておこう。 The Occupation Trilogy: La Place De L'etoile / T…

William Faulkner の “Requiem for a Nun” (2)

落ち穂拾いをしないといけない本がずいぶんたまってしまった。記憶や感動が薄れないうちに早く補足したほうがいいに決まってるのだけど、毎度へたくそなレビューもどきでも、じつはでっち上げるのに相当時間がかかり、昔とちがって、アップにこぎ着けた時点…

Patrick Modiano の “The Night Watch”(1)

きのう、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の第二作、"The Night Watch"(原作1969, 英訳1971)を読了。本書は "The Occupation Trilogy"(2015)の第二巻でもある。さっそくレビューを書いておこう。 The Occupation Trilogy: La Place De L'etoil…

Patrick Modiano の “La Place de l'Étoile”(1)

数日前、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の第一作、"La Place de l'Étoile"(原作1968, 英訳2015)を読みおえたのだが、諸般の事情で、きょうまでレビューもどきをでっち上げる時間が取れなかった。 本書は2015年に刊行された "The Occupation Tr…

Patrick Modiano の “Invisible Ink” (1)

フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の近作、"Invisible Ink"(2019, 英訳2020)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Invisible Ink: A Novel (The Margellos World Republic of Letters) 作者:Modiano, Patrick Yale University Press Amazon …

Veza Canetti の “The Tortoises”(1)

数日前にオーストリアの女流作家、Veza Canetti(1897 - 1963)の "The Tortoises"(1939)を読みおえたのだが、諸般の事情で、なかなかレビューをでっち上げる時間が取れなかった。はて、どうなりますか。(なお、Veza の夫はノーベル賞作家の Elias Canett…

William Faulkner の “Flags in the Dust”(2)

オーストリアの女流作家 Veza Canetti(1897 - 1963)の "The Tortoises"(1939)をボチボチ読んでいる。彼女の夫はノーベル賞作家の Elias Canetti(1905 - 1994)で、『新潮世界文学辞典』にも記載されているが、Veza のほうは未掲載。一般には、埋もれた…

Patrick Modiano の “So You Don't Get Lost in the Neighborhood”(1)

ゆうべ、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の "So You Don't Get Lost in the Neighborhood"(原作2014, 英訳2015)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 So You Don't Get Lost In The Neighborhood (English Edition) 作者:Modiano, Patrick…

Patrick Modiano の “Young Once”(1)

ゆうべ、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の "Young Once"(原作1981, 英訳2016)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Young Once (New York Review Books Classics) (English Edition) 作者:Modiano, Patrick NYRB Classics Amazon [☆☆☆★★★]…

Antonio Tabucchi の “Pereira Maintains”(1)

きのう、イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "Pereira Maintains"(原作1994, 英訳1995)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Pereira Maintains (Canons) 作者:Tabucchi, Antonio Canongate Canons Amazon [☆☆☆★★★] 1930年代、ポルト…

Antonio Tabucchi の “Requiem: A Hallucination”(1)

きのう、イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "Requiem: A Hallucination"(原作1991, 英訳1994)を読了。原語はポルトガル語である。さっそくレビューを書いておこう。 Requiem 作者:Tabucchi, Antonio Feltrinelli Traveller Amazon [☆☆☆★★★]…

Antonio Tabucchi の “The Edge of the Horizon”(1)

イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "The Edge of the Horizon"(原作1986, 英訳1990)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 The Edge of the Horizon (English Edition) 作者:Tabucchi, Antonio New Directions Amazon [☆☆☆★] 目に映る…

Antonio Tabucchi の “Indian Nocturne”(1)

イタリアの作家 Antonio Tabucchi(1943 - 2012)の "Indian Nocturne"(原作1984, 英訳1988)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Indian Nocturne (English Edition) 作者:Tabucchi, Antonio Canongate Books Amazon [☆☆☆★★] まさに「インド夜想曲」…

William Faulkner の “Requiem for a Nun” (1)

William Faulkner の "Requiem for a Nun"(1951)を読了。周知のとおり "Sanctuary"(1931)の続編で、前作から8年後の物語という設定になっている。さっそくレビューを書いておこう。(「なにから読むか、フォークナー」に転載)。 Requiem for a Nun (Vi…

Orhan Pamuk の “The Red-Haired Woman”(2)

(1)の結びで挙げたとおり、ぼくがいままで読んだ Orhan Pamuk の作品は7冊だが、そのうち1冊だけ再読するとしたら、やはり "My Name Is Red"(1998 ☆☆☆☆★)だろう。 ひとつには、同書がとても面白いミステリでもあるからだ。ふたつめに、犯人がだれか忘…

William Faulkner の “Flags in the Dust”(1)

きのう、William Faulkner の "Flags in the Dust"(1929)を読了。以下のレビューは、「なにから読むか、フォークナー」にも転載しました。 Flags in the Dust (Vintage International) 作者:Faulkner, William Vintage Amazon [☆☆☆★★★] ミシシッピ州の架空…

Orhan Pamuk の “Snow”(3)と既読作品一覧

今回のウクライナ侵攻では二次的な問題かもしれないが、トルコってフシギな国だな、と思ったひとも多いのではないか。実効性のほどはさておき、トルコがロシアとウクライナの仲介役となり、戦争当事国の外相会談がトルコでひらかれた。うん? なぜトルコなの…

Orhan Pamuk の “Snow”(2)

連日ウクライナ情勢の報道に接しているうち、過去記事で red or dead という問題にふれたことがあるのを思い出した。 red or dead とは、冷戦時代、西側の人びとが旧ソ連の核の脅威に屈して共産主義を選ぶか、それとも、自由と民主主義を守るために核戦争も…

Orhan Pamuk の “The Red-Haired Woman”(1)

きのう、Orhan Pamuk の近作 "The Red-Haired Woman"(2016)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 The Red-Haired Woman (Vintage International) 作者:Pamuk, Orhan Vintage Amazon [☆☆☆★★★] 現代のトルコを舞台にしたパムク版『オイディプス王』。こ…

Orhan Pamuk の “Snow”(1)

3回目のコロナ・ワクチン接種を受けたあと、高熱を発するなど副反応がひどく、体調が完全に回復するまでかなり時間がかかった。そのかんボチボチ読んでいたのが Orhan Pamuk の "Snow"(2002)。はて、どんなレビューになりますやら。 Snow (English Editio…

"Snow" 雑感と、文学におけるヒーローの死

力のない正義は無力であり、正義のない力は圧政的である。(パスカル『パンセ』) ウクライナでは連日、この箴言どおりの状況がつづいている。それは紀元前416年、ペロポネソス戦争のさなかに起きたメロス包囲戦を思わせるものだ。トゥキディデスの『戦史』…

ぼくの  “Homage to Ukraine”

いま、なにをなすべきなのか。 この質問を前回自分に投げかけてから、無い知恵を必死に絞ってみた。たまたま1年近く前、"Homage to Catalonia"(1938 ☆☆☆☆★★)を英語版で読みかえしたことを思い出し、もし George Orwell が現存の作家だったらどうするか考…

Virginia Woolf の “Mrs Dalloway”(3)

相変わらず絶不調。微熱がひかず、活字を目で追いかけるのがしんどい。予定ではとうに読みおえているはずの "Snow" もやっと半分まで進んだところ。 その中盤前から主人公のトルコの詩人 Ka は、訪れた地方都市 Kars で限定的に発生した軍事クーデターに巻き…

Virginia Woolf の “Mrs Dalloway”(2)

コロナかふつうの風邪か、どちらにしても発症8日目。だいぶ回復してきたが、まだ微熱が残っている。ぼくは平熱が低いので、すこしでも熱があると頭がぼんやりする。この状態が長引くのが風邪をひいたときの通例で、してみると、やっぱりふつうの風邪だった…

Sarah Waters の “Affinity”(2)と既読作品一覧

ついにコロナか、それともふつうの風邪か、とにかく発熱。おまけに喉がやけに痛く、調べるとオミクロン株の症状にそっくり。実際何度あるのかはコワくて測っていない。きょうは何日かぶりに起きていられる状態なので(たぶん発症4日目)、この記事を書いて…

Virginia Woolf の  “Mrs Dalloway”(1)

きのう、やっと Vriginia Woolf の "Mrs Dalloway"(1925)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Mrs Dalloway 作者:Woolf, Virginia Penguin Classics Amazon [☆☆☆☆★] ヴァージニア・ウルフ版『戦争と平和』といえるかもしれない。一方に、第一次大戦…