ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012-01-01から1年間の記事一覧

Dostoevsky の “The Eternal Husband and Other Stories” (1)

Dostoevsky の英訳短編集 "The Eternal Husband and Other Stories" をやっと読みおえた。訳者はご存じ Richard Pevear & Larrisa Volokhonsky 夫妻である。さっそくレビューを書いておこう。(点数はあくまでも、お遊びです)。The Eternal Husband and Oth…

“The Eternal Husband and Other Stories” 雑感 (3)

今年のブッカー賞最終候補作で1冊だけ読み残している Will Self の "Umbrella" がまだ手元に届かない。そこで、今月初めに中断してしまった Dostoevsky の英訳短編集、"The Eternal Husband and Other Stories" に再びとりかかった。こんどは第2話の表題作…

Tan Twan Eng の “The Garden of Evening Mists” (4)

要するに本書には、人間を簡単に善玉と悪玉に分けてしまう人間観が認められる。じつはそこに全体主義の恐怖が、虐殺の論理がひそんでいるのだが、話を広げすぎないように元に戻ろう。 この本の最大の読みどころは、雑感にも書いたとおり、「日本人を憎んでい…

Tan Twan Eng の “The Garden of Evening Mists” (3)

ぼくとしてはできるだけ本書を「純粋にフィクションとして見る」努力をしたつもりだが、ひるがえって、小説を「純粋にフィクションとして見る」とは一体どういうことなのだろう。構成や表現の巧みさ、テーマや各場面が与える感動、人物の生き方のみごとさな…

Tan Twan Eng の “The Garden of Evening Mists” (2)

ああ困った! これ、〈ブログ炎上もの〉の作品だからだ。このブログはたまたま、世捨て人の自己確認が主な目的なので交信不可にしているが、さもなければ、本書に出てくる「いわゆる従軍慰安婦や南京大虐殺、日本の戦争責任など、日本人にとって看過すること…

Tan Twan Eng の “The Garden of Evening Mists” (1)

今年のブッカー賞最終候補作、Tan Twan Eng の "The Garden of Evening Mists" を読了。さっそくレビューを書いておこう。なお、このレビューは昨日のショートリスト http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20120911 と、7月26日のロングリスト http://d.hatena…

2012年ブッカー賞ショートリスト発表 (Man Booker Prize 2012 shortlist)

夜の10時過ぎにふと、ブッカー賞の公式サイトをのぞいてみたら、意外に早くショートリストが発表されていた。このうち、"The Garden of Evening Mists" はちょうど今読んでいるところ。がんばれば明日にはレビューが書けるだろう。 今年はさいわい、手つかず…

“The Garden of Evening Mists” 雑感

いよいよブッカー賞ショートリストの発表が近づいてきた。日本時間だと12日の早朝だろうか。それまでには読了できそうにないが、とりあえず Tan Twan Eng の "The Garden of Evening Mists" を読みはじめた。William Hill がなぜか文字化けしてしまうので、N…

Ned Beauman の “The Teleportation Accident” (2)

「まるでおもちゃ箱をひっくり返したよう」な小説という形容は、われながら、けっこう本書の核心をついているような気がする。よくまあ、ヘンテコかつ愉快なエピソードを次から次に思いつくものだ。この創造力、想像力はただごとではない。そういう意味では…

Ned Beauman の “The Teleportation Accident” (1)

今年のブッカー賞候補作、Ned Beauman の "The Teleportation Accident" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。なお、今回のぶんもふくめて、今まで読んだ候補作のレビューを7月26日の日記にまとめておきました。http://d.hatena.ne.jp/sakihidem…

“The Teleportation Accident” 雑感 (2)

中盤を過ぎたあたりで、ようやくSFらしくなってきた! いちばん出番が多いという意味で主人公の Egon Loever が愛する女 Adele Hitler (あのヒトラーとは無関係) を追いかけ、ベルリンからパリへ、さらにロサンジェルスと移動。そのロスの大学で、Dr. Bale…

“The Teleportation Accident” 雑感 (1)

せっかくドストエフスキーの英訳短編集を読みはじめたのだが、ブッカー賞のショートリストの発表が迫ってきたのでひと休み。急遽、Ned Beauman の "The Teleportation Accident" に取りかかった。ペイパーバック版がもう出ているから、というだけの理由で以…

“The Eternal Husband and Other Stories” 雑感 (2)

きょう愛媛の田舎から横浜に帰ってきた。昨日は友人の車で高知の中土佐町まで出かけ、久礼の〈黒潮本陣〉で鰹たたき定食を満喫。とろけるような味だったが、友人によると、戻り鰹の季節がいちばんうまいと言う。帰りは四万十川沿いの道を走り、有名な岩間の…

“The Eternal Husband and Other Stories” 雑感 (1)

帰省3日目。いつものネットカフェでこれを書いている。チャリだと実家から10分だが、今日はもうすぐ、四万十市からやって来る友人と落ちあうことにしているので徒歩。25分もかかり、えらく疲れてしまった。しかし夕食後の運動にはちょうどよかったかな。途…

Deborah Levy の “Swimming Home” (2)

帰省2日目。今日はまず、ふるさと宇和島の宣伝から。宇和島に行く機会があったらぜひ鯛めしを食べてください。絶品です! ぼくの同僚でも何人かは知っていた。東京だと渋谷で食べられるのでは。ゆうべは駅前のに行ったが、ぼくはここがいちばんお気に入り。…

Jeet Thavil の “Narcoplolis” (2)

今日から愛媛の田舎に帰省。わが街、宇和島に1軒だけあるネットカフェでこれを書いている。途中松山に寄り、いつものようにでうどんを食べてから、大街道のサンシャインで『プロメテウス』を鑑賞。3D映画を観るのは初めてだったのでビックリしたが、今月…

Deborah Levy の “Swimming Home” (1)

今日も "Narcopolis の落ち穂拾いができなくなった。同じく今年のブッカー賞候補作、Deborah Levy の "Swimming Home" を読みおえ、そのレビューを書くことにしたからだ。"Narcopolis" の記憶が薄れていくのが心配だ。なお、"Swimming Home" のぶんもあわせ…

Alison Moore の “The Lighthouse” (2)

"Narcopolis" の落ち穂拾いもしなければならないが、昨日読んだ "The Lighthouse" のほうがぼくにはずっと楽しかったので、まずそちらから。 じつはこれ、点数評価をさんざん迷った作品である。ゆうべはいったん、☆☆☆★★★に落ちついたのだが、一夜明けてじっ…

Alison Moore の “The Lighthouse” (1)

今日はもともと、昨日の続きで "Narcopolis" の落ち穂拾いをするはずだったが、つい先ほど、同じく今年のブッカー賞候補作、Alison Moore の "The Lighthouse" を読了。記憶が薄れないうちにそのレビューを書いておくことにした。The Lighthouse (Salt Moder…

Jeet Thayil の “Narcopolis” (1)

今年のブッカー賞候補作、Jeet Thayil の "Narcopolis" を読了。さっそくレビューを書いておこう。Narcopolis作者:Thayil, JeetFaber & FaberAmazon[☆☆☆★] 1980年代初期に実在したかもしれぬ〈麻薬都市〉ボンベイ。本書はそれを紙上で再現しようとした試みで…

“Narcopolis” 雑感 (2)

「だんだん盛り上がるのを期待するしかありません」と昨日書いたのがよかったのか、中盤に入ってけっこうおもしろくなってきた。序盤では各エピソードがさほど熟さないまま焦点が移動し、雑然としたピンぼけ状態だったが、ボンベイのアヘン窟の経営者 Mr Lee…

“Narcopolis” 雑感 (1)

おとといの晩、久しぶりに飲み会があり、その席でドストエフスキーやオーウェルなどの話も出てきて大いに盛り上がった。みんなの話を聞いているうちに、ぼくの根っこの部分にはドストエフスキー体験があったんだな、と実感。じつはたまたま、〈文学の夏シリ…

Paul Auster の “Winter Journal” (2)

うかつなことに、しばらく読み進んでからやっと本書が小説ではないことに気がついた。新刊ニュースを知ったとき、もし自伝だとわかっていたら予約注文はしなかったかもしれない。ぼくはべつにオースターの熱心なファンというわけではなく、彼がどんな人生を…

Paul Auster の “Winter Journal” (1)

予約注文していた Paul Auster の最新作、"Winter Journal" が意外に早く届き、正式な発売日の今日読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。Winter Journal作者:Auster, PaulHenry Holt & CoAmazon[☆☆☆★★★] 2011年1月から、冬のさなかにポール・オース…

Nicola Barker の “The Yips” (3)

Barker の旧作 "Darkmans" を読んだのは5年も前のことなので、レビュー以外にどんな駄文を綴っていたのだろうと検索してみたら、「本書("Darkmans")を構成する主な要素はどれも尻切れトンボ。読んでいるときは確かに面白いのだが、さてその意味は?となると…

Nicola Barker の “The Yips” (2)

これで今年のブッカー賞候補作を読んだのは3冊目だが、ぼくには本書がいちばんしっくりきた。William Hill で相変わらず1番人気の "Bring up the Bodies" (3/1)よりいいと思う。先週読んだ "The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry" が3番人気(6/1)で、こ…

Nicola Barker の “The Yips” (1)

今年のブッカー賞候補作、Nicola Barker の "The Yips" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。The Yips作者:Barker, NicolaFourth Estate LtdAmazon[☆☆☆★★★] 人生はおよそ不条理で無意味、混沌としてなんの脈絡もなく、予想外の事件が偶発的…

“The Yips” 雑感 (3)

仕事の進みぐあいにもよるが、明日にはなんとかレビューが書けそうなところまで読み進んだ。フーフー。残暑厳しいなか、エアコンのないわが家で首筋に保冷パックを当てながら分厚い本を読んでいると、何やら自虐的な快感さえ覚える。洋書オタクの面目躍如で…

“The Yips” 雑感 (2)

今日も午前中は仕事に励み、昼から読書。夜は映画を観ることにしているので、大急ぎで昨日の続きを。(いいなあ、お盆休みって)。 8月にブッカー賞の候補作を何冊かまとめて読むようになったのは最近のことだが、いつも必ず1冊は大作があるもので、今年は…

“The Yips” 雑感 (1)

世間はお盆休みだが、ぼくは仕事がたまっているのでけっこう忙しく、実質的に在宅勤務。とはいえ、仕事ばかりだとストレスがたまるのでボチボチ本を読んでいる。今年のブッカー賞候補作の中から、今度は Nicola Barker の "The Yips" を選んでみた。 Barker …