ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Lynch の “Prophet Song”(4)

この十日ばかり、またしても絶不調だった。急激な冷え込みと極端な寒暖差に身体が対応せず、てきめん風邪をひいてしまった。 コロナでもインフルでもなく、ただ喉が痛く、黄色い鼻水が出て、7度にも満たぬ発熱。そんな気分のすぐれない日がずっとつづいた。…

Paul Harding の “This Other Eden”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Paul Harding(1967 - )の "This Other Eden"(2023)を読了。Paul Harding は周知のとおり2010年に "Tinkers"(2009 ☆☆☆★★★)でピューリツァー賞を受賞。 同賞の受賞作家がブッカー賞のショートリストにのこるのは、E…

Paul Lynch の “Prophet Song”(3)

外は冷たい雨。拙宅の前の公園を見わたすと、きのうの夕方、きれいに掃除したばかりのベンチまわりに桜の落葉がみごとに散乱している。 桜といえばもちろん春の季語で、古来、小野小町をはじめ多くの歌人・俳人たちに詠まれてきた。大昔の拙句だが、 はらは…

Paul Lynch の “Prophet Song”(2)

10月27日からはじまった読書週間が昨日でおわった。新聞によると、「あるアンケートでは、1ヵ月間に全く本を読まないという回答が半数近くを占めた。原因の一つは『読みたい本が分からない』こと」。 ぼくも他人ごとではなく、この春ごろから読書量が激減。…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(1)

またしても途切れ途切れの読書だった。昨日、Sarah Bernstein の "Study for Obedience"(2023)をやっと読了。Sarah Bernstein(1987 - )はカナダ出身の作家で、現在はスコットランド在住。デビュー作は "The Coming Bad Days”(2021 未読)。本書は彼女の…

Michel Houellebecq の “Submission”(3)

本書を読もうと思ったきっかけは、後日起きた大事件とはなんの関係もない。遅まきながら注文した今年のブッカー賞最終候補作が手元に届くまでの、いわば場つなぎに、積ん読の山からテキトーに見つくろっただけだ。 Houellebecq はフランスのベストセラー作家…

Paul Lynch の “Prophet Song”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Paul Lynch の "Prophet Song"(2023)を読了。前回途中経過を報告した翌日、一気に終盤まで進んだのはいいけれど、そのあと急に飽きてしまい、それから一日数ページのペースだった。 しかしいま、現地ファン投票による…

Michel Houellebecq の “Submission”(2)

先週7回目のコロナワクチン接種を受けてから絶不調。こんども副反応がひどかった。めずらしく高熱こそ出なかったものの、注射したほうの腕と両手がやけに痛かった。鎮痛剤を服まないと痛みがぶり返し、ほとんどコロナにかかったようなものだった。 いまも、…

Siân Hughes の “Pearl”(2)

先週末、横浜野毛の〈DOLPHY〉でもよおされたジャズコンサートを聴きにいった。 同店を訪れるのは今年7月につづいて二度め。こんどもドラ娘が帰省ついでに発案したものだ。当夜の出演者はみんな初耳だったけど、前頭葉で炸裂する音の饗宴に完全にノックアウ…

Michel Houellebecq の “Submission”(1)

きのう、フランスのベストセラー作家 Michel Houellebecq(1956 - )の "Submission"(原作・英訳2015)を読了。Wiki によると、仏語版が発売された1月7日、フランスの週刊風刺新聞シャルリー・エブド紙の本社にイスラム過激派テロリストが乱入、編集長そ…

Georgi Gospodinov の “Time Shelter”(2)

今年のブッカー賞最終候補作は、前回紹介した現地の人気ランキングをもとに、上位四作を注文した。デカ本らしい "The Bee Sting" と人気薄の "Western Lane" はパス。 四冊とも手元に届くのは来月になりそうなので、それまでのツナギに Michel Houellebecq …

Herman Diaz の “Trust”(2)

ロンドン時間で21日、今年のブッカー賞ショートリストが発表された。the Mookse and the Gripes における候補作の人気ランキングはつぎのとおり(4/5は集計方法のちがいによる)。1, Prophet Song by Paul Lynch2, Study for Obedience by Sarah Bernstein3,…

Siân Hughes の “Pearl”(1)

数日前、今年のブッカー賞一次候補作、Siân Hughes の "Pearl"(2023)を読みおえたのだけど、今回も諸般の事情でレビューをでっち上げるのが遅れてしまった。Siân Hughes はウェールズ出身の作家で、2009年に "The Missing" という詩集を発表しているが、小…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(5)

Siân Hughes の "Pearl"(2023)を読んでいる。なかなかおもしろい。 手に取ったきっかけは、先月初め The Mookse and the Gripes のブッカー賞関連のスレッドで、イギリス人の文学ファン Paul Fulcher 氏のこんなコメントを目にしたからだ。Well I have rea…

Georgi Gospodinov の “Time Shelter”(1)

数日前、今年の国際ブッカー賞受賞作、Georgi Gospodinov の "Time Shelter"(2020, 英訳2022)を読みおえたのだけど、例によって散漫な読みかたが災いし、きょうまでなかなか感想をまとめる気にならなかった。Gospodinov はブルガリアの作家で、本書は彼の…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(4)

前々回、「細部がよく書けている作品に駄作はほとんどありません」と大見得を切ったばかりなのに、あれま、"Trust"(2022)にはガッカリ。さすがに駄作とはいわないけれど、秀作になりそこねた水準作だった(☆☆☆★)。 一方、表題作はといえば☆☆☆★★。二冊同時…

Herman Diaz の “Trust”(1)

のどの痛みがだいぶ和らいできた。おかげで読書のペースも上がり、きのう、今年のピューリツァー賞受賞作、Herman Diaz(1973 - )の "Trust"(2022)をやっと読了。 Diaz は "In the Distance"(2017)でデビュー(未読)。それが2018年のピューリツァー賞…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(3)

旅行前、もう二週間近く前からのどが少し痛く、きのうの午後には微熱も。きょう桔梗湯を処方してもらったが、かかりつけの先生によると、一日ぶん三袋とも小さな魔法瓶(小型ペットボトル)にいれて水または白湯で溶かし、よく混ぜたものを少しずつ、うがい…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(2)

行きはよいよい、帰りはこわい。ゆうべ、やっとのことで九州・四国旅行から帰ってきた。 羽田発博多行きの飛行機に乗ったのが10日。台風6号の影響で条件つき飛行ということだったが、ぶじ着陸。博多市内の有名ラーメン店に直行し、長蛇の列にならんで待って…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(6)

前回(5)からずいぶん間があいてしまった。簡単におさらいをしておこう。日系アメリカ人の少年 Benny は父親 Kenji の死後、いろいろな「ものの声」が聴こえるようになり、ある夜、図書館の製本室で the Book にこう告げられる。... you encountered all t…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(1)

諸般の事情で長時間の読書、ブログとも夏休みだった。年金生活といえば毎日が夏休みのようなものだけど、それでもあれこれ雑用に追われ、けっこう忙しい。きのうもジムで走っていたら、三番めの孫、アカリちゃんをちょっと見ていて、という連絡が入り、予定…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(5)

先週末の夜、横浜野毛のジャズスポット〈DOLPHY〉でもよおされた、野力奏一(P)と本多俊之(S)のコンサートを聴きにいった。 ジャズの生演奏を聴くのは二回目。いつだったか、東京の〈BLUE NOTE〉でナベサダを聴いて以来だ。二回ともドラ娘の企画で、よろ…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(4)

きのう、いよいよ腰をいれて "Demon Copperhead"(2022)を読もうとした矢先、まさかの雪隠づめ。ちょっと用を足すつもりが、なんと三時間以上もかかってようやく脱出できた。 この「雪隠づめ」ということば、三軒先に住んでいるドラ息子夫婦にはピンとこな…

ダイアナ・クラールの「夢のカリフォルニア」

きょうは番外。歌手のアルファベット順に聴きはじめたジャズボーカル、もう Helen Merrill だけど(今回もやっぱりシビれる)、いまだに Diana Krall の "Wallflower"(2015)が忘れられない。最初の曲 "California Dreamin'" だけでも訳してみよう。 調べて…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(3)

Diana Krall の "Wallflower"(2015)にハマっている。 今月から歌手のアルファベット順にジャズボーカルを聴きはじめたのだけど(たしか三巡目)、Billie Holiday, Carmen McRae などやっぱりいいなあと思っているうちに Diana Krall。昔から好きな歌手だが…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(2)

まったくノリがわるいまま、おそらく今季最大の話題作 "Demon Copperhead"(2022)を読みはじめた。刊行年からして、今年の全米批評家協会賞の対象だったはずだが、最終候補作にもなっていない。だから、というわけではないけれど、「ノリがわるい」のもむべ…

Ling Ma の “Bliss Montage”(3)

短編集を読んだのはずいぶんひさしぶり。いまチェックすると、二年前の国際ブッカー賞最終候補作、"When We Cease to Understand the World"(2019 ☆☆☆★★★)以来だった。 同書ではハイゼンベルクの不確定性原理などが紹介され、コロナの時代という「不確実な…

Ling Ma の “Bliss Montage”(2)

きょうは Cleaning Day。掃除はぼくの係。体調不良のあいだサボっていたので、何日ぶりだろうか。週末にドラ娘が帰ってくる。目につくところだけでもキレイにしておかないと、と思って重い腰を上げた。 さて表題作。ご存じ今年の全米批評家協会賞受賞作だが…

Honorée Fanonne Jeffers の “The Love Songs of W.E.B. Du Bois”(5)

夕がた散歩に出かけたら、途中の〈あじさいの丘〉でもよおされていたあじさい祭りはきのうでおしまい。たしかに花の色もちょっと褪せ気味だった。下の写真を撮った今月初めはみずみずしかった。「五月ばかりなどに、山里に歩く、いとをかし」と清少納言が書…

Honorée Fanonne Jeffers の “The Love Songs of W.E.B. Du Bois”(4)

きのう鶴岡八幡宮へ、三番めの孫アカリちゃんの初宮参り。途中予報どおり、にわか雨に遭ったけれど、さいわい、お参りが済んだころにはまたすっかり晴れ上がり、ことなきを得た。 鎌倉は平日にもかかわらず人出が多く、とりわけ修学旅行生と外人が目についた…