ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013-01-01から1年間の記事一覧

“Truth Like the Sun” 雑感

Jim Lynch の "Truth Like the Sun" をボチボチ読んでいる。これは昨年、ニューヨーク・タイムズ紙の書評家、Janet Maslin が10 favorite books に選んでいたものだ。 Jim Lynch は、ぼくにとってはなつかしい作家だ。Maslin のリストを見て瞬間的に思い出し…

Barbara Kingsolver の “Flight Behavior” (2)

早く本書の落ち穂拾いを、と思っていたが、この週末も大忙し。読みはじめた本もろくに進まず、ただもうグッタリしていた。宮仕えの男は……あ、これは先週末にも書きましたな。 さて、あらためて米アマゾンを検索すると、レビュー数が1004に増えているが星は4…

Barbara Kingsolver の “Flight Behavior” (1)

Barbara Kingsolver の "Flight Behavior" を読了。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。Flight Behaviour作者:Kingsolver, BarbaraFaber And Faber Ltd.AmazonFlight Behavior: A Novel (P.S.)…

“Flight Behavior” 雑感

Barbara Kingsolver の最新作、"Flight Behavior" をボチボチ読んでいる。これはたしか去年の11月だったか、米アマゾンの月間優秀作品に選ばれているのを見かけ、へえ、Kingsolver が新作を出したのかと思ったものの、そのときはその程度の興味しか持たなか…

Barry Unsworth の “Sacred Hunger” (3)

職場が繁忙期に入り、きのうも土曜日なのに帰宅は夕方。ブログを書く気力もなく、晩酌をしたあと眠りこけてしまった。毎度ながら、宮仕えの男はつらいよ、ですな。 さて、本書を読みおえてから4日たったが、いまふりかえっても、「これはすごい作品だ」と思…

Barry Unsworth の “Sacred Hunger” (2)

1992年のブッカー賞は、本書のほかに Michael Ondaatje の "The English Patient" も受賞。長いブッカー賞の歴史の中で、受賞作が2作あるのは74年と92年の2回だけだ。 Ondaatje のほうは邦訳も出ているし、映画化もされるなど一般に有名な作品である。ぼく…

Barry Unsworth の “Sacred Hunger” (1)

Barry Unsworth の "Sacred Hunger" をやっと読みおえた。1992年のブッカー賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。なお、かなりネタを割っているのでご注意ください。Sacred Hunger作者:Unsworth, BarryPenguinAmazon[☆☆☆☆★] 現代文学ではめずら…

“Sacred Hunger” 雑感 (2)

きょうはけっこう頑張ったが、やっぱり読了できなかった。あしたからまた仕事なので、いましばらくかかりそうだ。 さて、おととい書いた事情で、これは粗筋をぼんやり憶えていた作品だが、いざ取りかかってみると、とんでもない勘違いをしていたことがわかっ…

“Sacred Hunger” 雑感 (1)

Barry Unsworth の "Sacred Hunger" をボチボチ読みはじめた。ご存じ1992年のブッカー賞受賞作である。 Unsworth の作品を読むのは、去年の3月、本書の続編とは知らずに読んだ "The Quality of Mercy” [☆☆☆] 以来、2冊目だ。あちらは、ほとんど記憶にのこっ…

Maria Semple の “Where'd You Go, Bernadette” (2)

きょうからプロフィールを公開することにしました。老後を考えての結論です。興味のある方はご覧ください。 さて、あらためて米アマゾンを検索すると、本書の評価は相変わらず星4つ半だが、レビュー数は784に増加。ますます人気が高まりそうな勢いである。 …

Maria Semple の “Where'd You Go, Bernadette” (1)

オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Maria Semple の "Where'd You Go, Bernadette" を読了。これは今年のアレックス賞受賞作でもあり、昨年のタイム誌の年間ベスト10小説や、Janet Maslin の10 Favorite Books にも選ばれている。さ…

“Where'd You Go, Bernadette” 雑感

まず、きのうの補足から。ぼくはヒストリカル・イフにはまったく意味がないと思っている。「もしヒトラーが誰かに殺されていたら悲惨な戦争は起こらなかっただろう」。そのとおりかもしれないが、そうでないかもしれない。なんの根拠もない仮定だ。いくら窓…

Kate Atkinson の “Life After Life” (3)

「パラレルワールドを提出することで、作者が何を訴えようとしているのか判然としない」とレビューには書いたが、じつはぼくなりに推測していることがある。 ただ、それを書くとネタバレの恐れあり。いままでの紹介で本書を読みたいと思った方は、……のあいだ…

Kate Atkinson の “Life After Life” (2)

本書がぼくの目にとまったいきさつは雑感に書いたとおりだが、いま検索すると、米アマゾンで星4つ(レビュー数141)、アマゾンUK でも星4つ(158)と、たいへんな人気を博している。この春の話題作であることは間違いないようだ。 けれども、へそ曲がりの…

Kate Atkinson の “Life After Life” (1)

Kate Atkinson の "Life After Life" をやっと読みおえた。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。Life After Life作者:Atkinson, KateDoubleday UKAmazon[☆☆☆★] 自分の生きている現実以外に、ま…

“Life After Life” 雑感 (3)

冒頭に登場する 'Führer' はやっぱりヒトラーですな。ただ、Ursula pulled the trigger. / Darkness fell. (p.14) とあるので、このヒトラーは射殺されたはずだが、その後……というのは伏せておこう。本書のタイトルと関係があることだけは間違いない。 とも…

“Life After Life” 雑感 (2)

差し障りのない程度にすこしずつ内容をまとめておこう。まず、序盤は目まぐるしく時間と場所が変化する。このフラッシュバックの多用にどんな効果があるのか、ぼくにはどうもピンとこない。それどころか、煩わしく思えることもあるほどで、これがクイクイ度…

“Life After Life” 雑感 (1)

ようやく新刊書が手元に届いた。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Kate Atkinson の "Life After Life" である。 Kate Atkinson の作品を読むのは、"When Will There Be Good News?" [☆☆☆☆] 以来、4年ぶり2冊目だ。1995年にウィッ…

David Mitchell の “Black Swan Green” (3)

ロサンジェルス時間で19日、Los Angeles Times Book Prizes の発表があり(対象は前年の作品)、小説部門では Ben Fountain の "Billy Lynn's Long Halftime Walk" [☆☆☆☆] が受賞。全米批評家協会賞とあわせて2冠達成となった。 さて、"Black Swan Green" …

David Mitchell の “Black Swan Green” (2)

なにしろ才人 David Mitchell の作品なので、「意外な展開となりそうな気もする」と期待しながら読んだのだが、結局、〈想定外〉と言えるほどの新工夫はなかった。途中、ナイフの話が出てきたときは、お、これか……と思ったのだが、ぼく好みの psychotic な方…

David Mitchell の “Black Swan Green” (1)

David Mitchell の "Black Swan Green" を読了。2006年のブッカー賞一次候補作で、2007年のアレックス賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。Black Swan Green: Longlisted for the Booker Prize作者:Mitchell, DavidHodder And Stoughton Ltd.Am…

2013年女性小説賞ショートリスト (2013 Women's Prize for Fiction shortlist)

ロンドン時間で16日、オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction (女性小説賞)のショートリストが発表された。 "Life after Life" は、英米カナダのアマゾンで先月や今月の優秀作に選ばれている。"Flight Behaviour" は、たしか昨年11月の米アマゾン選優…

2013年ピューリッツァー賞発表 (2013 Pulitzer Prize Winner for Fiction)

ニューヨーク時間で15日、今年のピューリッツァー賞が発表され、小説部門では Adam Johnson の "The Orphan Master's Son" がみごと栄冠に輝いた。ぼくはつい先日、最終予想で同書をイチオシにあげ、「この秀作をもうそろそろ、ちゃんと評価してほしい」と書…

“Black Swan Green” 雑感

注文している新刊がまだ届かないので、場つなぎに旧作探訪。David Mitchell の "Black Swan Green" をボチボチ読んでいる。 ほんとうは、Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" を読みおえたばかりなので、同書に Mitchell が inspire され…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (4)

実際、「本書の大前提には diversity がある」。どれか一面を採りあげて全体の象徴と見なすことはできない。これが本質だと思ったことが、つぎにはあっさり否定される。たとえば「読者編」には、'.... literature is more worthwhile the more it consists o…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (3)

大昔、金井美恵子の『書くことのはじまりにむかって』というエッセイ集を読んだことがある。中身はすっかり失念した。そもそも、あまり熱心に読んだ記憶もないが、書棚の奥に眠っていた中公文庫版をいまパラパラめくっていたら、こんな一節が目についた。 「…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (2)

雑感でもふれたように、恥ずかしながら未読の "Cloud Atlas" の前に Calvino の本書を、と思って取りかかったのだが、正直言って、かなりヘコタレましたね。こういうメタフィクションを読むのもたまにはいいけれど、しょっちゅう読んでいると胃にもたれる、…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (1)

Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" (1979) をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。If On A Winter's Night A Traveller作者:Calvino, ItaloVintage ClassicsAmazon[☆☆☆★★★] 小説とはなにか。小説を書くとはどういうこと…

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (3)

新年度が始まり超多忙。そこへ読みはじめたのがメタフィクションとあって、すっかりカタツムリ君になってしまった。おととい紹介したように、David Mitchell は、本書の執筆をめぐる Calvino の瞑想に 'enthrall' されたとのことだが、ぼくはむしろ 'enervat…

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (2)

海外文学を読んでいると、時たま、ほんとにヘンテコな小説に出くわすものだが、本書も明らかにそのひとつだろう。いわゆるメタフィクションというやつですな。 きのう引用した冒頭からして、これからはじまる小説を読もうとしている読者の話である。それがす…