ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-01-01から1年間の記事一覧

Jacqueline Woodson の “Another Brooklyn” (1)

ゆうべ、今年の全米図書賞の最終候補作、Jacqueline Woodson の "Another Brooklyn" を読了。すぐにレビューを書きたかったのだが、いつも駄文のわりに時間がかかるのであきらめた。ひと晩寝かせた効果はあるでしょうか。Another Brooklyn: A Novel (English…

"Another Brooklyn" 雑感

ゆうべ、遅まきながら『言の葉の庭』をブルーレイ盤で観た。現在、レンタル店では借りられっぱなし、という話を同僚から聞き、へえ、やっぱり評判どおりの出来なんだ、とさっそくゲット。よかった、すごく。『君の名は。』も観たくなったが時間がない。 寝床…

ぼくの2016年ブッカー賞予想と回想

おととい、Graeme Macrae Burnet の "His Bloody Project" を読了。ブッカー賞受賞作の発表前に最終候補作をぜんぶ読みおえたのは、なんと2011年以来5年ぶり。まことにお恥ずかしい限りだが、ぼくにしてはけっこう頑張ったほうだ。 昨年秋、本ブログを再開…

Graeme Macrae Burnet の “His Bloody Project”(2)

イギリス各社の最新のオッズを調べると、本書はブッカー賞レースでおおむね3番人気。意外に高い下馬評なんだなあ、というのがぼくの感想だ。 たしかに「よく出来たクライム・ストーリー」だし、「人生の苦い真実も汲みとれる点」も評価できる。が、「苦い真…

Graeme Macrae Burnet の “His Bloody Project”(1)

今年のブッカー賞最終候補作、Graeme Macrae Burnet の "His Bloody Project" を読了。さっそくレビューを書いておこう。His Bloody Project作者:Burnet, Graeme MacraePublishers Group UKAmazon[☆☆☆★] 前半はよく出来たクライム・ストーリー。19世紀なかば…

"His Bloody Project" 雑感

ゆうべ寝床の中で『センセイの鞄』をやっと読みおえた。2週間近くかかってしまったが、最後だけ一気読み。ぼくはこのセンセイと同じ年代なのではないか。おかげで目はウルウル。川上弘美、いいですなあ。これからも少しずつ日本文学を catch up しなければ…

Madeleine Thien の “Do Not Say We Have Nothing” (4)

これはシンドイ、ヤバイ本ですが、なかなかいい。ということで点数は☆☆☆★★★。採点法のパクリ元、故双葉十三郎氏の『西洋シネマ体系』の簡略版『外国映画ぼくの500本』(文春新書)をチェックすると、『カサブランカ』や『ベン・ハー』などと同点である。え、…

Madeleine Thien の “Do Not Say We Have Nothing” (3)

ふたたび言うと、これはヤバイ本です。もし本書がめでたく栄冠に輝いたとしても、邦訳は出ないかもしれない。政治的なリスクがあるからだ。 ここには彼の国の暗黒の歴史がしるされている。文化大革命については、たぶん、似たり寄ったりの事件が頻発していた…

Madeleine Thien の “Do Not Say We Have Nothing” (2)

いまイギリス各社のオッズを調べると、本書は今年のブッカー賞レースで、Deborah Levy の "Hot Milk" と本命・対抗を争うほどの人気を集めているようだ。 でもこれ、シンドイ本ですよ。ぼくはそれほど乗れなかった。ただでさえ宮仕えで忙しいのに、このとこ…

Madeleine Thien の “Do Not Say We Have Nothing” (1)

ゆうべようやく、今年のブッカー賞最終候補作、Madeleine Thien の "Do Not Say We Have Nothing" を読了。すっかり遅くなってしまった。諸般の事情というやつで、ひとつには風邪のせいだが、さて、どんなレビューになりますやら。 追記:その後、本書は2016…

"Do Not Say We Have Nothing" 雑感 (2)

ぼくの見落としでなければ、タイトルの表現が本文中に初めて出てくるのはここだ。"Jiang Kai," she said spitefully. "now I understand. I'll forget Prokofiev. I'll play the 'March of the Volunteers' and 'The Internationale' for all eternity. The …

"Do Not Say We Have Nothing" 雑感 (1)

今週は疲れのせいか、血圧のせいか頭が重かった。不安になり、きょう帰宅途中に病院に寄ると、高血圧では症状は出ないという。すると原因はなんだろう。蓄積疲労、ストレスかな。それとも…… さて、いま読んでいるのは電車の中で Madeleine Thien の "Do Not …

Colin Barrett の “Young Skins” (2)

本書を買い求めたのは半年前。そのときまで、フランク・オコナー賞が2015年で廃止されていたとは知らなかった。ブログの休止期間中、海外文学から離れていたからだ。 11年間にわたる同賞の歴史の中で、ぼくはこれで受賞作を6冊読んだことになる。わりとまめ…

Colin Barrett の “Young Skins” (1)

2014年のフランク・オコナー国際短編賞(Frank O'Connor International Short Story Award)、および同年のガーディアン紙新人賞(Guardian First Book Award)のダブル受賞に輝いた Colin Barrett の "Young Skins" をようやく読了。さっそくレビューを書い…

Ottessa Moshfegh の “Eileen” (2)

先ほどイギリス各社のオッズを調べたところ、本書はいちように最下位。ぼくはまだ最終候補作を2冊読み残しているが、おそらく順当な予想だろうと思う。 同じく断言は控えるが、ロングリストの中には、これよりほかにもっとショートリストに残るべき作品があ…

Ottessa Moshfegh の “Eileen” (1)

今年のブッカー賞最終候補作、Ottessa Moshfegh の "Eileen" をゆうべ読了。ひと晩寝かせたところで、さて、どんなレビューが書けますやら。Eileen: Shortlisted for the Man Booker Prize 2016作者:Moshfegh, OttessaRandom House UK LtdAmazon[☆☆☆★] なる…

"Eileen" 雑感 (2)

いま読んでいるのは、行きの電車で "Eileen"、帰りの電車で "Young Skins"、そして寝床で『風味絶佳』。おかげでどれも少しずつだが、3週目に入った山田詠美だけはやっと終わりそうになってきた。 3冊ともおもしろい。ただ、そのおもしろさは、どれも知的…

"Eileen" 雑感 (1)

きのう Ottesssa Moshfegh の "Elieen" と、Madeleine Thien の "Do Not Say We Have Nothing" を落手。アマゾンUKに注文していたものだが、同時に日本経由で頼んだもう1冊のブッカー賞候補作は発送もされていない。どうなってんだろ。 上の2作のうち、薄…

Sandor Marai の “Embers” (4)

Sandor Marai の作品が wiki の記述どおり、「ヨーロッパ文学の正典の一部」ではないかと推測するゆえんはもうひとつある。それは、彼が「国家や民族、文明、文化、歴史などの問題を見すえた巨視的な人間観」の持ち主であると同時に、人間の心の中を真摯に見…

Sandor Marai の “Embers” (3)

雑感で紹介したように、wiki によると、Sandor Marai の諸作は「今日では、20世紀ヨーロッパ文学の正典(カノン)の一部と見なされている」。ぼくは今回 "Embers" を読んだだけだが、この記述はどうやら正しいのではないかという気がする。 今さら言うまでも…

Sandor Marai の “Embers” (2)

これは雑感で紹介したように、世界有数の文学ブロガーだったカナダの故 Kevin 氏が、2014年のベストテンに選んでいた作品である。Sandor Marai という作家、もちろんぼくは初耳だった。Kevin 氏の守備範囲はほんとうに広かった。 が、不遜なことに、本書にか…

Sandor Marai の “Embers” (1)

ハンガリーの作家 Sandor Marai(ハンガリー語の表記は Marai Sandor)の "Embers" を読了。初版は1942年刊。本書は2001年に出された英訳版である。さっそくレビューを書いておこう。Embers (Vintage International)作者:Marai, SandorVintageAmazon[☆☆☆★★★]…

"Embers" 雑感 (3)

本書における〈現代〉は1940年。舞台はハンガリー辺境の地にある森の中の城。そこに年老いた将軍 Henrik が住んでいる。その Henrik のもとに手紙が届く。士官学校時代の旧友 Konrad がなんと1899年以来、ほぼ40年ぶりに訪ねてくるという。 これが冒頭で、話…

"Embers" 雑感 (2)

本書の作者 Sandor Marai(1900 - 1989年)は、wiki によるとハンガリーの作家。ハンガリー語圏では日本人の名前と同じく、名字から先に Marai Sandor(マーライ・シャーンドル)と表記するのだそうだ。 ハンガリーでは著名な作家だったらしい。反ナチス、反…

"Embers" 雑感 (1)

まず、今年のブッカー賞ショートリストについて。13日の昼に勤務先のパソコンで〈ぼくの予想〉を掲載したあと(いかん、これが社長の目にとまるとマズイ)、帰宅して The Mookse and the Gripes を覗いたら、もうショートリストの discussion が始まっていた…

2016年ブッカー賞ショートリスト発表(The Man Booker Prize 2016 Shortlist)

今年のブッカー賞ショートリストが発表された。(この情報は、ぼくのアンテナに掲載している The Mookse and the Gripes で入手。公式発表以前の速報かもしれない。この記事も実際は13日に書きました)。本ブログに掲載した予想のうち、的中したのは "The Se…

ぼくの2016年ブッカー賞ショートリスト予想

今年のブッカー賞ロングリストに選ばれたのは、なぜか13作。このうち、ぼくが読んだのは6作だけ。しかも、ロングリスト発表以後に読んだのはたったの4作だから、あちらのファンの読書量とくらべるとお寒いかぎりだ。 だから「予想」と題してもヤマカンに近…

Ian McGuire の “The North Water” (2)

きのうカバー写真をアップしたペイパーバックは来年1月発売予定。ぼくがイギリスから取り寄せたハードカバーは、なぜかアップできる選択肢にはなかった。 そこでアマゾンUKを調べると、レビュー数59で星4つ半。各社のオッズどおり、ブッカー賞レースの対抗…

Ian McGuire の “The North Water” (1)

今年のブッカー賞候補作、Ian McGuire の "The North Water" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The North Water: Now a major BBC TV series starring Colin Farrell, Jack O'Connell and Stephen Graham作者:McGuire, IanSimon + Schuster UKAmazon…

"The North Water" 雑感

まず "All That Man Is" の最後の補足から。ぼくが思わず落涙しそうになったのは、第9話の幕切れ寸前だ。過去に心臓手術を受け、今また交通事故にあった70代の老人が退院後、レストランで娘と食事をしている。'In a sense this love he feels [for his daug…