ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2018-01-01から1年間の記事一覧

Kamila Shamsie の “Home Fire”(1)

今年の女性小説賞(前ベイリーズ賞、旧オレンジ賞)受賞作、Kamila Shamsie の "Home Fire"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。Home Fire: WINNER OF THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2018 (High/Low)作者:Shamsie, KamilaBloomsbury UKAmazon[…

David Mitchell の “Cloud Atlas”(1)

このところボチボチ読んでいた2004年のブッカー賞最終候補作、David Mitchell の "Cloud Atlas" をやっと読了。さっそくレビューを書いておこう。Cloud Atlas作者:Mitchell, DavidHodder And Stoughton Ltd.Amazon[☆☆☆☆★] 人類に果たして進歩は、未来はある…

Olga Tokarczuk の “Flights”(4)

本書の目玉のひとつは解剖学にかんする断章だろう。人体や内臓の標本を展示した博物館、17世紀の死体解剖の話など、いわば怖い物見たさも手伝ってかなり面白い。奇書と言ってもいいほどだ。が、それとタイトル "Flights" との関係はどうなのか。 そう疑問に…

Olga Tokarczuk の “Flights”(3)

論より証拠、と俗に言うが、この出典が〈江戸いろはかるた〉だとは先ほど調べるまで知らなかった。調べようと思ったのは、どこかの国の政界やマスコミのあいだで空理空論の思い込みが蔓延しているような気がしたからではない。この "Flights" で示されている…

Olga Tokarczuk の “Flights”(2)

最終的な評価は☆☆☆★★にしたけれど、途中はこれ、かなり退屈な本だった。ソファに寝転がって読んでいると、ついウトウト。目が覚めると、聴きはじめたはずのブルックナーがもう終わり、ということがよくあった。ブルックナーがいけなかったのかな。 もちろん…

Olga Tokarczuk の “Flights”(1)

ゆうべ、今年の国際ブッカー賞受賞作、Olga Tokarczuk の "Flights"(2007)を読了。原語はポーランド語。さっそくレビューを書いておこう。(後記:その後 Olga Tokarczuk はノーベル文学賞を受賞しました)Flights作者:Tokarczuk, OlgaRiverhead BooksAmaz…

Orhan Pamuk の “My Name Is Red”(2)

何度か(2)を書こうと思いつつ、きょうまでズレこんでしまった。泣く子も嗤うような〈恥ずかしながら未読シリーズ〉だからだ。どんな感想を述べても、何かの記事の二番煎じでしょう。 ということで、まず周辺情報から。本書は国際IMPACダブリン文学賞受賞…

Orhan Pamuk の “My Name Is Red”(1)

きのう、2003年の国際IMPACダブリン文学賞受賞作、Orhan Pamuk の "My Name Is Red"(1998)を読了。原語はトルコ語。一日寝かせたところでレビューの書き出しが頭にちらついてきた。さてどうなりますか。My Name is Red作者:Pamuk, OrhanFaber And Faber Lt…

Andrew Sean Greer の “Less”(2)とゲイ小説名作選

本書のピューリッツァー賞受賞は意外と思った人が多いかもしれない。P Prize. com の直前予想では泡沫候補扱いだったからだ。 本命視されていたのは、昨年の全米図書賞受賞作、Jesmyn Ward の "Sing, Unburied, Sing"(☆☆☆★★)。ついで、今年(対象は昨年)…

Salman Rushdie の “Midnight's Children”(2)

これはもちろん〈恥ずかしながら未読シリーズ〉。そんなシリーズでも開始しなければ、あまりにも〈いまさら感〉の強い作品なので、ずっと積ん読のままだったことだろう。 前回(1)のレビューを読み返してみたが、案の定、つまらないことしか書いていない。…

Andrew Sean Greer の “Less”(1)

今年のピューリッツァー賞受賞作、Andrew Sean Greer の "Less"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。Less (Winner of the Pulitzer Prize): A Novel (The Arthur Less Books, 1)作者:Greer, Andrew SeanBack Bay BooksAmazon[☆☆☆★★] おれの、わ…

Dave Eggers の “What Is the What”(4)

前回(3)からずいぶん間があいてしまったが、あと少しだけ補足しておきたい。本書はスーダンの内戦によって発生した難民の物語ということで、彼らに襲いかかる危険や困難がリアルに描かれている。が、それは、あえて不謹慎な言い方をすれば〈想定内〉。小…

Salman Rushdie の “Midnight's Children”(1)

1981年のブッカー賞受賞作、Salman Rushdie の "Midnight's Children"(81)を読了。周知のとおり、1993年には Booker of Bookers にも選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。Midnight's Children作者:Rushdie, SalmanRandom House UK LtdAmazon[☆☆…

Amos Oz の “A Tale of Love and Darkness”(2)

老後の生活は悠々自適と期待していたが、あに図らんや、このところ何かと雑用に追われ、思うように本が読めない。ブログも更新する気になれなかった。そんないま、ボチボチ読んでいるのが Salman Rushdie のご存じ "Midnight's Children"(1981)。 え、ホン…

2018年国際ブッカー賞発表(Man Booker International Prize 2018)

イヤな予感が当たってしまった。今年の国際ブッカー賞は Olga Tokarczuk(Jennifer Croft 訳)の "Flights" に決定。(前回では、作者と訳者を勘違いしていました)。Olga はポーランドの著名な作家だそうだ。Flights作者:Tokarczuk, OlgaRiverhead BooksAma…

Han Kang の “The White Book”(2)

いくつか落ち穂拾いをしたい作品があるが、きょうは順番を変えて "The White Book"。ご存じ今年のブッカー国際賞最終候補作である。現地ファンのあいだでは1番人気のようだ。 ちなみに、2番・3番人気は Olga Tokarczuk(Jennifer Croft 訳) の "Flights"…

Han Kang の “The White Book”(1)

今年のブッカー国際賞最終候補作、Han Kang の "The White Book" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The White Book作者:Kang, HanGranta BooksAmazon[☆☆☆★★] 生きていると、言葉にならない苦しみや、言葉をかけようもない悲しみを経験することがある…

Amos Oz の “A Tale of Love and Darkness”(1)

イスラエルの作家 Amos Oz の自伝小説 "A Tale of Love and Darkness"(2002)を読了。原書はヘブライ語で、英訳の刊行は2004年。Wiki ではノンフィクション・ノヴェルに分類されている。さっそくレビューを書いておこう。A Tale Of Love And Darkness作者:O…

Dave Eggers の “What Is the What”(3)

この本については書きたいことがたくさんある。ありすぎて、数回では収まりそうにないくらいだ。きょうは最重要点と思われることだけ挙げておこう。 まず、これは純然たるフィクションではない。おそらく周知の事実だろうが、著者 Dave Eggers と、Valentino…

Dave Eggers の “What Is the What”(2)

積ん読の山の中で、この本は前から気になっていた。前回アップしたのは Penguin 版だが、実際に読んだのは Vintage 版。あるとき、アマゾンUSでいろんな作品を検索するたびに、どういうわけかこの Vintage 版の表紙が目につくようになった。 なかなかのコワ…

Dave Eggers の “What Is the What”(1)

2006年の全米批評家協会賞最終候補作、Dave Eggers の "What Is the What"(2006)を読了。さっそくレビューを書いておこう。What is the What作者:Eggers, DavePenguin Books Ltd (UK)Amazon[☆☆☆☆★] スーダンの内戦勃発により国外へ脱出した難民の自伝にも…

Ahmed Saadawi の “Frankenstein in Baghdad”(2)

妙な言い方かもしれないが、老後の生活もやっと軌道に乗ってきた。ハローワークで失業保険の手続きを済ませ、フィットネスクラブに通って運動を開始。もっか、バタ足の練習をしているところ。 何よりほぼ一日一本、映画を見られるようになったのが大きい。ぼ…

Ahdaf Soueif の “The Map of Love”(2)

これは〈恥ずかしながら未読シリーズ〉なのか、それとも〈ジャケ買いシリーズ〉なのか。ともあれ、いつだったかブッカー賞の受賞作や候補作を検索しているうちにタイトルと表紙が目にとまり、さっそく入手したものの、以来積ん読。先日、「そうだ、長い本を…

Ahmed Saadawi の “Frankenstein in Baghdad”(1)

今年のブッカー国際賞最終候補作、Ahmed Saadwi の "Frankenstein in Baghdad" を読了。アラビア語の原書は2013年刊、英訳版は2018年刊である。さっそくレビューを書いておこう。FRANKENSTEIN IN BAGHDAD作者:Saadawi, AhmedPenguin BooksAmazon[☆☆☆★★] フセ…

Ingrid Hill の “Ursula, Under”(2)

前回、「一般にはあまり知られていない作品かもしれない」と書いたが、じつはこれ、昔のジャケ買い本。ぼく自身、実際に読むまでどんなものか知らなかった。 入手したいきさつも憶えていない。表紙に "The Time Traveler's Wife"(未読)で有名な Audrey Nif…

Ahdaf Soueif の “The Map of Love”(1)

1999年のブッカー賞最終候補作、Ahdaf Soueif の "The Map of Love"(1999)を読了。さっそくレビューを書いておこう。The Map of Love作者:Soueif, AhdafBloomsbury Pub LtdAmazon[☆☆☆☆] もし映画化して邦題をつけるなら『愛と宿命のエジプト』。20世紀初頭…

Rohinton Mistry の “A Fine Balance”(3)

本書について、もう1回だけ駄文を書いておこう。Dina Dalal seldom indulged in looking back at her life with regret or bitterness, or questioning why things had turned out the way they had, cheating her of the bright future everyone had predi…

Ingrid Hill の “Ursula, Under”(1)

ゆうべ、Ingrid Hill の "Ursula, Under"(2004)を読了。一般にはあまり知られていない作品かもしれない。いま検索すると、Washington Post 紙の2004年ベスト小説のひとつに選ばれていたようだ。さっそくレビューを書いておこう。Ursula Under作者:Hill, In…

Rohinton Mistry の “A Fine Balance”(2)

Rohinton Mistry のことは前から気になっていた。旧作が2つ、ブッカー賞のショートリストに選ばれているからだ。そこで今回、〈恥ずかしながら未読〉シリーズの一環として、まず本書(1996)を読んでみることにした。表紙は "Family Matters"(2002)のほう…

Rohinton Mistry の “A Fine Balance”(1)

きのう、1996年のブッカー賞最終候補作、Rohinton Mistry の "A Fine Balance"(1996)をやっと読了。先週、愛媛の田舎に帰省する前から読みはじめたが、その後何かと慌ただしく、ずいぶん手間取ってしまった。はて、どんなレビューになりますやら。 追記:…