ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2018-01-01から1年間の記事一覧

W. G. Sebald の “Austerlitz”(2)

もっか、父の七回忌その他で愛媛の宇和島に帰省中。桜は先週が見頃だったらしいが、いまはもうほとんど葉桜ばかり。かろうじて残っている花も、きょうの雨ですっかり散ってしまうことだろう。 その代わり、きのう訪れた市内天赦園の上り藤は、受付の案内によ…

Patrick Modiano の “In the Cafe of Lost Youth”(2)

ああもう、先月ハワイに出かけてから2週間もたってしまった。ほぼ40年ぶりの海外旅行で大興奮したというのに、記憶がどんどん薄れていく。息を切らしながら登ったダイヤモンドヘッド。あれはいったい何だったんだろう。 と、それと似たような思いが積もり積…

W. G. Sebald の “Austerlitz”(1)

きょうは Patrick Modiano の "In the Cafe of Lost Youth" について若干補足するはずだったが、ゆうべ、W. G. Sebald の "Austerlitz"(2001)を読了。周知のとおり、2001年の全米批評家協会賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 追記:本書は…

Patrick Modiano の “Dora Bruder”(2)

今回のハワイ旅行の友に Modiano を選んだのは、本のサイズが軽薄短小だったから。Modiano は旅の直前にも読んだばかり。同じ作家のものは内容がある程度予測できるので、ふだんはなるべく連続して読まないようにしているのだが、旅行となると話は別。自分好…

Patrick Modiano の “In the Café of Lost Youth”(1)

きょうは本当は "Dora Bruder" の続きを書くまわりなのだが、ゆうべ、ハワイ旅行の帰りに読みはじめた、同じく Patrick Modiano の "In the Café of Lost Youth"(2007)を読了。記憶が薄れないうちに、そちらのレビューを書いておこう。In the Café of Lost…

Patrick Modiano の “Dora Bruder”(1)

きのうハワイから帰ってきた。ダイヤモンドヘッドに登り、パールハーバーのツアーに参加した以外は、観光らしきこともせず、ショッピングも ABC Stores でチョコレートをお土産に買っただけ。あとはのんびりワイキキビーチで本を読んでいた。 帰りの機内で読…

Patrick Modiano の “Suspended Sentences”(2)

きのうはぼくの最終出勤日だった。40年近く勤めた職場とも、いよいよオサラバ。昼前に帰宅し、かみさんともども、シャンパンで祝杯をあげた。 老後の予定は特にない。とりあえず、きょうの午後から、ほぼ40年ぶりにハワイに出かけ、4月には愛媛の田舎に帰省…

Patrick Modiano の “Suspended Sentences”(1)

ゆうべ、Patrick Modiano の "Suspended Sentences"(1993)を読了。仏語の原題は "Chien de printemps"。3作の中編 "Afterimage" "Suspended Sentences" "Flowers of Ruin" を一冊にまとめたもので、表題作以外の原題は "Remise de peine"(1988)、"Fleur…

“The Green House”(2)と “No One Belongs Here More Than You”(2)

きのうまで飛鳥・奈良・京都を旅行していた。雨は一滴も降らず、きのうの昼など京都市内は22度。この時期に奈良や京都で汗だくになったのは初めてだ。 閑話休題。きょうは2冊まとめて補足しておこう。まず "The Green House"(1966)だが、いくら不勉強のぼ…

Miranda July の “No One Belongs Here More Than You”(1)

きょうは Mario Vergas Llosa の "The Green House" について若干補足しようと思っていたのだが、先ほど2007年のフランク・オコナー国際短編賞受賞作、Miranda July の "No One Belongs Here More Than You"(2007)を読了。記憶が薄れないうちにレビューを…

Mario Vargas Llosa の “The Green House”(1)

Mario Vargas Llosa の "The Green House"(1966)を読了。スペイン語の原題は "La Casa Verde"。さっそくレビューを書いておこう。The Green House作者:Vargas Llosa, MarioHarper PerennialAmazon[☆☆☆★★★]「文化とは、ある国民の生きかたである」と述べた…

Patrick Modiano の “Missing Person”(2)

先週は退職前の歓送会やら、財布を落とすやら!、何かとあわただしい毎日だった。 さて、Patrick Modiano もご存じノーベル賞作家(2014年受賞)。「も」というのは、本ブログの数少ないリピーターのみなさまならお気づきのとおり、ぼくはこのところ、〈文学…

Patrick Modiano の “Missing Person”(1)

1978年のゴンクール賞受賞作、Patrick Modiano の "Missing Person"(1978)を読了。仏語の原題は "Rue des boutiques obscures"。ご存じ『冬のソナタ』の下敷きになった作品である。さっそくレビューを書いておこう。Missing Person (Verba Mundi Book)作者…

Doris Lessing の “The Good Terrorist”(2)

Doris Lessing はご存じノーベル賞作家(2007年受賞)。が、恥ずかしながら、ぼくはいままで短編すら読んだことがなかった。そこで今回、〈文学のお勉強シリーズ〉の一環で本書に取り組んだというわけだ。 なにしろ1985年のブッカー賞最終候補作である。きっ…

Doris Lessing の “The Good Terrorist”(1)

1985年のブッカー賞最終候補作、Doris Lessing の "The Good Terrorist"(1985)をやっと読了。さっそくレビューを書いておこう。The Good Terrorist: A Thriller (Vintage International)作者:Lessing, DorisVintageAmazon[☆☆☆] 戦争も革命もテロも、その起…

"The Good Terrorist" 雑感 (2)

ボチボチ読んでいたが、やっと終盤に差しかかってきた。眠い目をこすりつつ、少しだけ、今までの内容を振り返ってみよう。 まず、看板に偽りあり、と言いたくなるほどテロの話題はなかなか出てこない。主人公 Alice をふくむコミュニストのグループが爆弾製…

"The Good Terrorist" 雑感 (1)

先週 Alice Munro の短編集を読みおえた翌日、青森に出かけた。前からぜひ、それも冬場に太宰治の生家、斜陽館を訪れたかった。 思ったほどの積雪量ではなかったが、それでも途中寄った弘前、五所川原、そして斜陽館のある金木はもちろん雪の中。五所川原に…

Alice Munro の “The Progress of Love”(2)

Alice Munro を初めて読んだのは5年前、大変遅ればせながら2013年正月のことだった。それが現時点で最新作の "Dear Life"(2012)。いたく気に入り(☆☆☆☆)、10月には "Dance of the Happy Shades"(1968)を通読。完全にノックアウトされましたね(☆☆☆☆★)…

Alice Munro の “The Progress of Love”(1)

Alice Munro の短編集 "The Progress of Love"(1986)を読了。さっそくレビューを書いておこう。The Progress of Love作者:Munro, AliceVintageAmazon[☆☆☆★★★] 人生にはときどき、「永遠の一瞬」とでもいえるような瞬間がある。いつまでも心にのこり、なに…

Yiyun Li の “A Thousand Years of Good Prayers”(2)

え、あんた、まだこれを読んでなかったんですか、という声が聞こえてきそうですね。まことにお恥ずかしい次第だが、ほかにも読み洩らしている名作傑作は山ほどあり、これから少しずつ遅れを取り戻していくしかない。 さて、Yiyun Li の作品を読むのは "Gold …

Nadine Gordimer の “The Conservationist”(4)

最後の補足をしておこう。本書は1974年のブッカー賞受賞作だが、いまのところまだ邦訳は出ていないようだ。その理由はおそらく、「決して面白い読み物ではない」からだろう。要するに、「売れない」という判断が昔からあるのではないか。 ところが、内容はど…

Yiyun Li の “A Thousand Years of Good Prayers”(1)

あとひとつだけ Nadine Gordimer の "The Conservationist" について補足すべきことを思い出した。が、きのう第1回フランク・オコナー国際短編賞受賞作、ご存じ Yiyun Lin の "A Thousand Years of Good Prayers"(2005)を読了。早くも記憶が薄れかかって…

Nadine Gordimer の “The Conservationist”(3)

まず昨日の訂正から。2番めの引用箇所に If I had had my father's money とあったので、メモを確かめもせず、中間部分のエピソードもうっかり Mehring の息子の話だと勘違いしてしまった。実際は Mehring 自身が経験したことである。朝起きて気がつき、あ…

Nadine Gordimer の “The Conservationist”(2)

いやはや、これはムツカシかった! この数年読んだ本の中では、最高難度の部類に入ると思う。 悪戦したのはむろん、ぼく自身の貧弱な語学力のせいでもある。が、それを差し引いても、本書の難解さは単に語学だけの問題ではないかもしれない。 語学だけなら、…

Nadine Gordimer の “The Conservationist”(1)

1974年のブッカー賞受賞作、Nadine Gordimer の "The Conservationist" を読了。Gordimer は南アフリカの作家で、1991年にノーベル文学賞を受賞。本書はたぶん彼女の代表作のひとつだと思うが、まだ邦訳は刊行されていないようだ。さっそくレビューを書いて…

"The Conservationist" 雑感

Nadine Gordimer の "The Conservationist"(1974)を読んでいる。Gordimer は周知のとおり南アフリカの作家で、1991年にノーベル文学賞を受賞。本書は74年のブッカー賞受賞作である。 恥ずかしながら、それくらいのことしか Gordimer については知らなかっ…

Michael Redhill の “Bellevue Square”(2)

前回もふれたとおり、これはカナダで最も権威のある文学賞、ギラー賞の2017年度受賞作。また、現地のファン投票(Shadow Giller)でも1位を獲得した作品である。それなのに、ぼくの評価は☆☆★★★(約55点)。あんた、読み方がおかしいんじゃないの、と座布団…

Michael Redhill の “Bellevue Square”(1)

きのう晩酌前に、2017年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)受賞作、Michael Redhill の "Bellevue Square" を読了。日本の読者にはなじみが薄いかもしれないが、カナダでは最も権威のある文学賞である。ひと晩寝かせたところでレビューを書いておこう。B…

Joyce Carol Oates の “Them”(2)

ううむ、さすが Joyce Carol Oates、モノがちがう! エクセルに打ち込んでいる読書記録によると、ぼくが☆☆☆☆★(約85点)を進呈したのは、Iris Murdoch の "The Bell"(1958)と A. S. Byatt の "Possession"(1990)以来、なんと2年ぶり。これにはぼく自身…

Joyce Carol Oates の “Them”(1)

きのう本書を読了。1970年の全米図書賞受賞作である。いつもならすぐにレビューを書くところだが、なぜか〈あとがき〉が気になり斜め読みしたところ、ぼく自身の感想をもう少し煮詰めたほうがいいなと思い直した。 その結果が以下の駄文だが、これを書いてい…