ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013-01-01から1年間の記事一覧

Ruth Ozeki の “A Tale for the Time Being” (5)

土曜日はいつも出勤日なのだが、きょうは日程の変更で休み。久しぶりにゆっくり時間が取れ、Jhumpa Lahiri の "The Lowland" をあと少し、というところまで読み進んだ。 このまま一気に片づけてもいいのだが、土曜日は晩酌デーでもあるのでレビューは書けそ…

Ruth Ozeki の “A Tale for the Time Being” (4)

Nao の話はどうした、あっちが本筋だろ! と座布団が飛んできそうだが、きょうも Haruki #1 について考えてみたい。 彼は特攻を志願した理由のひとつをこう述べている。'By volunteering to sortie, I have now regained a modicum agency over the time rem…

Ruth Ozeki の “A Tale for the Time Being” (3)

さて、本書が相当に読みごたえのある佳作であることを十分に認めたうえで、あえて重箱の隅をつつき、いささか気になる点にふれておこう。 主人公 Nao の曾祖母 Jiko には、太平洋戦争末期に特攻隊員として戦死した息子 Haruki がいた。その名をもらったのが …

Ruth Ozeki の “A Tale for the Time Being” (2)

きょうは簡単な補足だけしておこう。タイトルについてだが、Nao の曾祖母 Jiko がメールでこんな俳句を Nao に送ってくる。 「あるときや ことのはもちり おちばかな」 (p.23) この英訳も載っていて、'For the time being,/ Words scatter... / Are they fal…

Ruth Ozeki の “A Tale for the Time Being” (1)

最近は自分でも感心するくらい仕事に没頭。読書もブログもさっぱりだったが、この連休中(といっても、ぼくの場合は2連休)は久しぶりにまとまった時間が取れ、序盤だけ読んだまま中断していた今年のブッカー賞最終候補作、Ruth Ozeki の "A Tale for the T…

“A Tale for the Time Being” 雑感

ゆうべ、意外にも早くブッカー賞のショートリスト発表のニュースをキャッチするまでは、Richard House の "The Kill" を読んでいた。同賞の第一次候補作である。 今週から取りかかったのだが、イマイチ乗れない。ミステリアスな筋立てで、それなりにおもしろ…

2013年ブッカー賞ショートリスト発表 (2013 Man Booker Prize Shortlist)

ロンドン時間で10日、今年のブッカー賞ショートリストが発表された。今年の夏は仕事その他、諸般の事情でろくに本が読めず、下馬評もたしかめなかったので、順当な結果かどうかはわからない。たまたま読んだロングリスト7作の中では、残念ながら落選してし…

Charlotte Mendelson の “Almost English” (3)

母親のローラは義理の母たちと同居し、娘のマリーナはドーセットにある全寮制のパブリック・スクールに転校。それなのに二人の心理状態は「パラレルで、一方がパニックにおちいったときは相手もまたしかり、という展開」である。 この構成や、ほかにも作者の…

Charlotte Mendelson の “Almost English” (2)

たいへん遅ればせながら、きょう『風立ちぬ』を観に行った。これも本書とおなじく大幅に予定がずれこんでしまった。 堀辰雄と堀越二郎をミックスさせた話と聞いたときから興味があり、一ヵ月前に友人に感想を聞いたところ、「よかったよ」という。その後、宮…

Charlotte Mendelson の “Almost English” (1)

すっかり予定が狂ってしまったが、おととい今年のブッカー賞候補作、Charlotte Mendelson の "Almost English" を読了。きょうまでレビューを書く時間が取れなかった。メモを見て思い出しながら書いておこう。Almost English作者:Mendelson, CharlotteMantle…

“Almost English” 雑感 (2)

きょうもデスクに本書と仕事の資料を並べておき、パソコンを打ちくたびれたころで、やおら本に取りかかるという一日だった。そんな読み方では理解しにくい小説もあるが、本書の場合、どこを読んでも金太郎飴。基本的に同じ調子なので、すっとまた物語の世界…

“Almost English” 雑感 (1)

またまた、すっかりブログをサボってしまった。楽あれば苦あり。田舎でボンヤリ過ごしたのはいいが、そのあと山積していた仕事を片づけるのに追われ、おまけに夏風邪まで引いてしまった。このところ朝昼晩、一日の寒暖の差がかなりあるのも一因だが、それよ…

Tash Aw の “Five Star Billionaire” (3)

ずいぶんブログをサボってしまった。なんとか飛行機の切符が取れ、お盆からずっと愛媛の田舎に帰省していた。(写真は宇和島の料亭〈丸水〉。「がんすい」と読みます。ここで食べた鯛飯が絶品だった!) 帰省中もブログを更新しようと思ったが、まず途中寄っ…

Tash Aw の “Five Star Billionaire” (2)

まず、ぼくの Longlist: Dynamic Ranking に追加しておこう。 1. "Five Star Billionaire" 2. "Harvest" 3. "We Need New Names" 4. "The Spinning Heart" 5. "TransAtlantic" 6. "The Testament of Mary" つまり、いままで読んだなかでいちばんいい。ただし…

Tash Aw の “Five Star Billionaire” (1)

今年のブッカー賞候補作、Tash Aw の "Five Star Billionaire" を読了。さっそくレビューを書いておこう。Five Star Billionaire: A Novel作者:Aw, TashSpiegel & GrauAmazon[☆☆☆★★★] 現代の上海版『虚栄の市』、いや「虚妄の市」というべきだろう。題名から…

“Five Star Billionaire” 雑感

きょうは暑かった! おでこに冷えピタを貼り、首筋や脇の下には保冷パック。そこまでやるのにはわけがある。わが家にはエアコンがないからだ。扇風機もあるが使わない。人力扇風機、つまり、うちわをパタパタやりながら、上のかっこうで何とかしのいでいる。…

NoViolet Bulawayo の “We Need New Names” (3)

前半は、大ざっぱに言えばジンバブエ版『パール街の少年たち』。破天荒な狂騒劇が連続するなかに哀感もただよい、読み物としてもおもしろい。その流れからすると、最後だけ文学的に深いテーマを掘り下げるわけにはいかなかったのかもしれない。が、肩すかし…

NoViolet Bulawayo の “We Need New Names” (2)

点数的には厳しめになってしまったが、じつは★をひとつオマケすべきかどうかけっこう迷った。これで今年のブッカー賞候補作を読んだのは5冊目だが、楽しい読み物としては本書が随一かもしれない。おとといの2013 Longlist:Dynamic Ranking に追加しておこう…

NoViolet Bulawayo の “We Need New Names” (1)

今年のブッカー賞候補作、NoViolet Bulawayo の "We Need New Names" を読了。Bulawayo はジンバブエ出身の新人作家で、本書は彼女の長編デビュー作である。さっそくレビューを書いておこう。We Need New Names作者:Bulawayo, NoVioletChatto & WindusAmazon…

Colum McCann の “TransAtlantic” (2)

ぼくのアンテナに掲載している The Mookse and the Grimes Forum に、2013 Longlist:Dynamic Ranking というコーナーがある。いま見ると、どれもまだ中間報告だが、5人の読者がブッカー賞ロングリストのランキングを発表している。さっそくマネしてみよう。…

Colum McCann の “TransAtlantic” (1)

今年のブッカー賞候補作、Colum McCann の "TransAtlantic" をやっと読了。さっそくレビューを書いておこう。TransAtlantic作者:McCann, ColumBloomsbury Publishing PLCAmazon[☆☆☆★] アメリカの奴隷制時代から21世紀の現代まで、大西洋をわたった人びとの運…

“TransAtlantic” 雑感 (2)

きのう出かける前に大急ぎで書いた雑感を読みかえしたところ、いろいろなミスを発見した。再録した昔のレビューも気に入らず改稿。どうでもいいような駄文なのだけれど、少しでもましなほうがいい きのうの外出先は、六本木の国立新美術館。書道の大家、手島…

“TransAtlantic” 雑感 (1)

超多忙の毎日からようやく解放され、いままで途切れ途切れに読んでいた今年のブッカー賞候補作、Colum McCann の "TransAtlantic" に今日から本格的に取りかかった。McCann の作品を読むのはこれで3冊目である。 Colum McCann というアイルランドの若い、い…

Chimamanda Ngozi Adichie の “Americanah”(4)

本書の落ち穂拾いはもうおしまいと思っていたが、今日も仕事でヘトヘト。読みだした本もろくに進んでいないので、昨日に引きつづき、"Americanah" の気に入ったくだりを引用してお茶を濁しておこう。わかりにくい箇所もあるかと思うが、説明はいっさい省略し…

Chimamanda Ngozi Adichie の “Americanah” (3)

昨日も今日も帰宅は夕方。もっか超多忙中につき、なかなか本が読めない。このブログも書くゆとりがなく、ゆうべもパソコンに向かったまま眠りこけてしまった。 そこできょうは、本書のヒロイン Ifemelu が書いたブログの記事を引用してお茶を濁しておこう。…

Chimamanda Ngozi Adichie の “Americanah” (2)

仕事の合間に本書をダラダラ読んでいるうちに、ブッカー賞のロングリストが発表されてしまった。きょうはまず、毎年おなじみ William Hill の odds を紹介しておこう。 6/1 Eleanor Catton "The Luminaries" 7/1 Jim Crace "Harvest", 7/1 Colm Tóibín "The …

Chimamanda Ngozi Adichie の “Americanah” (1)

諸般の事情で予定よりずいぶん遅れてしまったが、Chimamanda Ngozi Adichie の新作 "Americanah" をなんとか読了。さっそくレビューを書いておこう。Americanah: A novel (ALA Notable Books for Adults)作者:Adichie, Chimamanda NgoziKnopfAmazon[☆☆☆☆] な…

2013年ブッカー賞ロングリスト発表 (2013 Man Booker Prize Longlist)

どうやら今年のブッカー賞のロングリストが発表されたようですな。見ると、ぼくの「直前予想」で当たったのは、以下にレビューを再録した3冊のみ。まだ読んでいる途中なのに、「今年の大本命かもしれませんよ!」とアドバルーンを上げた Chimamanda Ngozi Ad…

2013年ブッカー賞ぼくのロングリスト予想

いよいよロンドン時間で23日、ブッカー賞のロングリストが発表される。あちらのファンはさぞ、どんな作品が選ばれそうかという話題で大いに盛り上がっていることだろう。 下馬評の一部は、このブログで紹介している Man Booker Prize Eligible 2013 や The M…

“Americanah” 雑感

Chimamanda Ngozi Adichie の "Americanah" をボチボチ読んでいる。Adichie が新作を出したことは前から知っていた。ニューヨーク・タイムズ紙の書評家 Janet Maslin のレビューを目にしたことがあるからだ。Michiko Kakutani の場合と同じく、内容までは読…